228 / 303
おまけ 104
しおりを挟むいつ何が起こるのかわからないこの状況では、何よりも優先させるべきは速やかにはるひを連れ帰ることだ。
「 っ、そこに足をかけて、跳べるか?」
はるひを促しながら、さっと銀色のナイフを撫でるようにしてやれば俺達を狙っていた瘴気がさらさらと溶けて消える。
「はい。クラド様……あとどれくらいでしょうか?」
ぽつんと尋ねられて答えに詰まった。
俺一人だけなら夜通し動けもするが一般人……いや、それよりも山歩きに慣れていないはるひを連れてどれだけかかるかは検討がつかない。テリオドス領でそれなりに体を動かしていたようだからどうにもならないほど動けないと言うわけではなかったけれど、それでも進みはゆっくりだ。
ましてや下りの多い状態で急ぐこともできず、はるひはどこか焦れているように見える。
「ちゃんと山を下っている、心配はいらない」
「……でも……」
元々山道に慣れている俺と自分を比べても仕方のないことだと言ってしまうと、どこか突き放したような気分になるだろうかと言葉を飲む込む。
「焦る気持ちはわかる、俺だって早く落ち着いてはるひを抱きたいからな」
「だ っそ、そんなこと」
「俺だってと言っただろう?」
「その言い方だと、オレもだか んんっ……って、思っているみたいです!」
「違ったか? そうか、俺だけだったか」
片眉を上げて問いかけてやると、白い肌にさっと朱が広がって……こちらを睨んでくる黒い瞳に笑い返す。
こちらの世界に召喚された時から見守ってきて、俺に向ける好意を含んだ瞳が好きだ。周りからは同じ黒色だから親しみやすいだけだろうと言われたがそれだけじゃない、その奥にある気持ちが俺を堪らない気分にさせるんだ。
俺の宝だ と、人前で言えと言われたら幾らでも言うことができるだろう。
はるひを守るためならば、俺はなんだってできる。
「わっ」
「大丈夫か?」
「はい……足ばっか引っ張っちゃって……帰ったらもっと体力つけるようにします!」
ふんっと鼻息も荒くはるひが拳を作った瞬間だった。
──── それは、気配だ。
体中が総毛だつ感覚にとっさにはるひを懐に入れて辺りを窺う。
幸いここは少し開けているためか多少ならば長剣を振り回すこともできるが……
「 っ、クラド さま 」
はるひも気配を感じたのか、それとも俺の様子に気づいたのか、さっと顔を曇らせて身を固くして左右を見回している。
周りは木と岩ばかりで……隠れようと思えば隠れられる場所は多かったが、どうやら相手は身を潜める気はないようだった。
じゅる と触手が動く。
それは一見すると瘴気にも似ていたが明らかに大きさが違うし、その中を何か黒いものが漂うように動いているのがわかる。
5
お気に入りに追加
491
あなたにおすすめの小説
馬鹿犬は高嶺の花を諦めない
phyr
BL
死にかけで放り出されていたところを拾ってくれたのが、俺の師匠。今まで出会ったどんな人間よりも強くて格好良くて、綺麗で優しい人だ。だからどんなに犬扱いされても、例え師匠にその気がなくても、絶対に俺がこの人を手に入れる。
家も名前もなかった弟子が、血筋も名声も一級品の師匠に焦がれて求めて、手に入れるお話。
※このお話はムーンライトノベルズ様にも掲載しています。
第9回BL小説大賞にもエントリー済み。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる
ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
※Rシーンには♡マークをつけます。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

転生したらオメガだったんだけど!?
灰路 ゆうひ
BL
異世界転生って、ちょっとあこがれるよね~、なんて思ってたら、俺、転生しちゃったみたい。
しかも、小学校のころの自分に若返っただけかな~って思ってたら、オメガやベータやアルファっていう性別がある世界に転生したらしく、しかも俺は、オメガっていう希少種の性別に生まれたみたいで、は?俺がママになれるってどういうこと?しかも、親友の雅孝をはじめ、俺を見る目がなんだか妙な感じなんですけど。どうなってるの?
※本作はオメガバースの設定をお借りして制作しております。一部独自の解釈やアレンジが入ってしまう可能性があります。ご自衛下さいませ。

オメガ転生。
桜
BL
残業三昧でヘトヘトになりながらの帰宅途中。乗り合わせたバスがまさかのトンネル内の火災事故に遭ってしまう。
そして…………
気がつけば、男児の姿に…
双子の妹は、まさかの悪役令嬢?それって一家破滅フラグだよね!
破滅回避の奮闘劇の幕開けだ!!
逃げる銀狐に追う白竜~いいなずけ竜のアレがあんなに大きいなんて聞いてません!~
結城星乃
BL
【執着年下攻め🐲×逃げる年上受け🦊】
愚者の森に住む銀狐の一族には、ある掟がある。
──群れの長となる者は必ず真竜を娶って子を成し、真竜の加護を得ること──
長となる証である紋様を持って生まれてきた皓(こう)は、成竜となった番(つがい)の真竜と、婚儀の相談の為に顔合わせをすることになった。
番の真竜とは、幼竜の時に幾度か会っている。丸い目が綺羅綺羅していて、とても愛らしい白竜だった。この子が将来自分のお嫁さんになるんだと、胸が高鳴ったことを思い出す。
どんな美人になっているんだろう。
だが相談の場に現れたのは、冷たい灰銀の目した、自分よりも体格の良い雄竜で……。
──あ、これ、俺が……抱かれる方だ。
──あんな体格いいやつのあれ、挿入したら絶対壊れる!
──ごめんみんな、俺逃げる!
逃げる銀狐の行く末は……。
そして逃げる銀狐に竜は……。
白竜×銀狐の和風系異世界ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる