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おまけ 102

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 そうだ、オレ達が何をおいても考えなければならないのは、ここから無事に帰ることなんだから……

「行けるか?」

 たった一人でオレを救いにきてくれたクラドの手は傷跡だらけだ。
 ゴツゴツしていて見た目は荒っぽいけれど、その手がどれだけ優しくてどれだけオレを傷つけないようにしてくれているか知っているから。

「はい!」

 オレは覚悟を決めて返事をした。
 


  ◆  ◆  ◆



 不安がないわけじゃなかった。
 ここに来るまでにどれほどの瘴気や魔物に追いかけられたか、もう数えることもできないほどだったし、魔人の存在に対しても俺一人で対処できるかどうか微妙なところだった。

 それに、もう一つの……

 はるひが酷く言いにくそうに告げた名前に合点がいった。
 幼い頃に見かけたことがあったのを思い出したが、その時には相手も小さな子供だったからすっかり成長してしまった今の姿がわからなかったんだろう。

 先代巫女のエステス。

 金髪碧眼の少年だったが……決して表に出ることのない存在でもあった。
 もしかしたら国民の中にはミロクの次に呼び出されたのはかすがだと思っている人も多からずいるだろう、影の薄い巫女だ。

 無礼にもミロクが年嵩だったからと若い巫女を欲した一部の思惑のために呼び出されたその巫女は、異世界から召喚された時にはまだへその緒がついたままだった。
 新聞紙に包まれたその赤ん坊は歴代の巫女のように異世界の名前も持たず、知識も持たずに祭り上げられ……そして結局は聖なる力が使えないのは困ると言う、やはり身勝手な言い分から幼い頃に引退させられた経歴を持つ。

 ……歴代最強と言われたミロクと神の寵愛の厚いかすがの間に存在した、何も成さなかった……いや、成せなかった巫女。

 もちろん、かすがに代替わりしたとは言え巫女は巫女だ、決してぞんざいな扱いはされていないはずだし、兄にされる定期報告にも「つつがなく健やかに暮らしておいでだ」と書かれていた。

 それが、何があってエステスが魔人と共にいるのか?
 いや、それだけじゃない、はるひの証言だとエステスが魔人に体液を分け与えていた と言っていた。
 酷くうろたえたように言葉を選んで話されたそれは推測を混ぜる必要があったけれど、エステスは率先してその身を預けていたのだと言う。

 なぜ?
 
 たしかエステスは、男爵位ではあるが豊かな領地と大商団を持つ、穏やかな気性のカメロ男爵家で世話になっているはずだったが……

「そう言えば、オレ……考えたんですけど」

 それまで黙りこくっていたはるひの声に思わず足を止めた。


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