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おまけ 92
しおりを挟む温かかったと思ったのは火を焚いていたからなのか……と思うと、胸の内が冷たくなる。
ここには、オレ以外に誰もいない。
今日もまた一日、独りでこの空間に居続けなければならないのか? このままここにいて、もっと寒くなればこれ以上の防寒の手段を持たないオレなんてあっと言う間に凍え死んでしまうだろうことは明白で……
この場所はどうしてだか瘴気も魔物も立ち入ってはこない場所ではあったけれども、それは同時にオレがここから逃げ出すこともできないことでもあった。
もちろん、山深いここに人の気配なんてなくて……
「クラドさ、ま、……が いたと思ったのに 」
ぽと と涙が落ちて沁み込んでいく。
川辺に流れ着いた人を見つけた時は心臓が止まるかと思ったけれど、それがクラドだと知って何が起こったのかわからないままがむしゃらに引き上げて、手当をして、目覚めを待って……その後、確かに愛し合ったと思ったのは、寂しさに耐え切れなくなったオレが見た幻だったんだろうか?
枯れ葉を集めてなんとか横になれるようにした寝床にはぬくもりなんかなくて、ぽとぽとと落ちる涙の音が大きく響く。
「やだ、やだ、クラド様、やだっ」
ひくりとしゃくりが上がって、堪えきれなくなって悲鳴のような泣き声が漏れる。
「やだっやだやだっ! どこっ! クラド様っ」
どこ と絞り出すように叫んだ瞬間、「はるひ!」と鋭い声と駆け寄る足音がして……
「はるひ! どうした⁉︎ 何があった⁉︎」
幻聴だ……と思った瞬間に喉の奥がひっと鳴って息が詰まったような感覚がした。体を揺すられて必死の形相で声をかけられて、そこでやっとほっと肺が動き出す。
「ク 」
名前を呼ぶ声は曖昧で、喉に貼りついたまま出てこない。
「一人にして悪かった、ゆっくりでいい。落ち着くまでこうしている」
そっと背中に回されるのは温かい手で、オレがもたれているのは温かい胸だ。
体温のあるそれは、目の前のクラドがオレの寂しさから見た幻覚じゃないって教えてくれる。
耳をつけた胸から聞こえるのは少し早い鼓動だったけれど、じっと縋りついているうちにゆっくりと穏やかなリズムを刻んでいく。
「クラド様だ 」
「? ああ」
改めて言われてクラドは何のことかわかっていない表情のままだったけれど、オレはそれが自分勝手に見た幻じゃないんだって言っているようでほっと胸を撫で下ろす。
「少し、寝ぼけたみたいです」
「そうか……すまないな、起きるのを待てばよかった」
そう言ってオレのあっちこっちに向いてしまっている髪を梳き、駆けてきた方へと視線をやった。
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