狼騎士は異世界の男巫女(のおまけ)を追跡中!

Kokonuca.

文字の大きさ
上 下
200 / 303

おまけ 76

しおりを挟む
 少し前の事、デリックと対面する前に私とレオナードは事前対策の為に恋愛小説を読み漁った。

 その中で私達は同時に首を捻った表現があったのを、私は覚えている。それは───【僕の可愛い子猫ちゃん】だった。

 他にもピーチ、チェリー、カップケーキ………等々。まぁそれらの登場頻度は少なかったので、見ないフリをした。けれど、この【僕の可愛い子猫ちゃん】というフレーズは、やたらめったら出てきたのだ。
 
 …………なぜ、人間に向かって、猫呼ばわりする?そして、そう呼ばれた女子は何故、嬉しそうにする?

 薄暗い図書室で、その二つの疑問を同時にぶつけた結果、私達は結局その答えを見つけられなかった。ただ、わかったことが二つあった。一つ目は、そんなことを口にする人間の心理が理解できないこと。もう一つは、そんな扱いをされるのは不快だということ。

 そう、それなのに………………私は、やらかしてしまったのだ。

 仕草を犬に例えられるならともかく、存在そのものを、哺乳類扱いをされたのだ。生き物の頂点に立つ霊長類ヒト科という立ち位置にいるレオナードが受けた衝撃は、きっと計り知れないものなのだろう。本当に申し訳なかった。

 もし仮に、私が同じようなことを言われたら、落ち込む前に、そう言った奴を地面に埋め込ませるところ。

 そんなことを考えながら、そぉっとレオナードに視線を向ければ、彼は絶望の淵にいた。本当にゴメン。マジでゴメン。

 …………ただ一つ言わせて欲しい。悪気はなかったのだ。

「あのね、レオナード。そうじゃないわ…………」

 そこまで言って、死んだ目をした公爵家のご長男様を見つめる。表情は臨終しているけれど、風になびくその髪はつやっつやっの、さらっさらっ。ああ、どうあってもジャスティを思い出してしまう自分が恨めしい。

「と、言いたいところだけれど、あなたの毛並みは滑らかで…………その…………ごめんなさい」

 結局、私は素直な気持ちを伝え、謝罪をすることを選んだ。 

 そうすれば、レオナードは弱々しい声で『いや、良いんだ』と、緩く首を振った。けれど、私の目には、何一つ良いと思えるものが見当たらない。

 ここは再び謝罪の言葉を紡ぐべきだろうか。それとも『ユーアーホモサピエンス!』と元気に伝えるべきなのだろうか。いや、違う。今はそっとしておくのが一番だ。

 長々とそんなことを考えていたら、不意にレオナードが私に視線を向け、口を開いた。

「すまない、ミリア嬢。………………浮上するまでに少々時間が欲しい。悪いがケーキを食しながら待っててもらえるか?」
「もちろん良いわよ。レオナード」

 レオナードのテンションが地に落ちたのは、間違いなく私の責だ。罪悪感で胸が痛い。けれど、やっとフォンダンショコラを食べれるこの現状に、私は食い気味に頷いてフォークを手にしてしまった。それを見たレオナードは、何も言わなかった。

 もしゃもしゃとフォンダンショコラを咀嚼する。とても美味しい。

 そして、完食した途端に、自分のショコラも差し出してくれるレオナードに素直に感謝の念を抱く。っていうか、項垂れているのに、良く見えたものだ。

 と、そんなことを考えながら出されたスウィーツを全て食べ終えた私だったけれど、レオナードは未だに浮上中。ここで急かすような鬼畜なことはできないので、私はぼんやりと東屋の天井にいる天使さん達を見つめてみる。

 本日も天使さんも微笑みを湛えている。けれど、どことなく複雑な笑みに見える。言葉にするなら『もう、お前ら勝手にしとけ』的な感じ。

 まぁ、確かに今日の私達は傍から見たら、首を捻る光景なのかもしれない。

 と、こっそり苦笑を浮かべた瞬間、視界の隅でようやっと顔を起こすレオナードが映った。

「………………ミリア嬢、すまない待たせたな」
「いいえ、大丈夫よ」

 少し微笑んでそう伝える。けれど、私はすぐに今日の本題を切り出すことにした。なにせ、今の私には時間に限りがあるのだ。

「ねえ、レオナード。浮上したところ悪いんだけれど…………」

 ちらっと上目遣いでレオナードを見れば、彼は引き攣った表情で小さく頷いた。それが痙攣の仕草にも見えなくはないけれど、ここは気付かないふりをして、言葉を続けさせて貰う。

「私、この前から保留になっている質問の回答をしたいんだけれど、あなたのメンタルは大丈夫?受け止められるかしら?」
「ああ、もちろんだ」
「え?あ、そ、そうなの」
「ああ」

 ぶっちゃけ、今更かよと言われてしまうと思っていた。いや、もういいやと言われることもあると思っていた。

 けれどレオナードは、この時が来たかと呟いて、居ずまいを正した。

 それに倣い私も、居ずまいを正して口を開く。会えない間ずっと考えていた彼の問い掛けの答えを。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】元騎士は相棒の元剣闘士となんでも屋さん営業中

きよひ
BL
 ここはドラゴンや魔獣が住み、冒険者や魔術師が職業として存在する世界。  カズユキはある国のある領のある街で「なんでも屋」を営んでいた。  家庭教師に家業の手伝い、貴族の護衛に魔獣退治もなんでもござれ。  そんなある日、相棒のコウが気絶したオッドアイの少年、ミナトを連れて帰ってくる。  この話は、お互い想い合いながらも10年間硬直状態だったふたりが、純真な少年との関わりや事件によって動き出す物語。 ※コウ(黒髪長髪/褐色肌/青目/超高身長/無口美形)×カズユキ(金髪短髪/色白/赤目/高身長/美形)←ミナト(赤髪ベリーショート/金と黒のオッドアイ/細身で元気な15歳) ※受けのカズユキは性に奔放な設定のため、攻めのコウ以外との体の関係を仄めかす表現があります。 ※同性婚が認められている世界観です。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

そばにいられるだけで十分だから僕の気持ちに気付かないでいて

千環
BL
大学生の先輩×後輩。両片想い。 本編完結済みで、番外編をのんびり更新します。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

【後日談完結】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

ばいむ
ファンタジー
剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。 高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。 特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長していった。 冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、そして・・・。 初投稿というか、初作品というか、まともな初執筆品です。 今までこういうものをまともに書いたこともなかったのでいろいろと変なところがあるかもしれませんがご了承ください。 誤字脱字等あれば連絡をお願いします。 感想やレビューをいただけるととてもうれしいです。書くときの参考にさせていただきます。 おもしろかっただけでも励みになります。 2021/6/27 無事に完結しました。 2021/9/10 後日談の追加開始 2022/2/18 後日談完結

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

【本編完結】異世界で政略結婚したオレ?!

カヨワイさつき
BL
美少女の中身は32歳の元オトコ。 魔法と剣、そして魔物がいる世界で 年の差12歳の政略結婚?! ある日突然目を覚ましたら前世の記憶が……。 冷酷非道と噂される王子との婚約、そして結婚。 人形のような美少女?になったオレの物語。 オレは何のために生まれたのだろうか? もう一人のとある人物は……。 2022年3月9日の夕方、本編完結 番外編追加完結。

聖獣王~アダムは甘い果実~

南方まいこ
BL
 日々、慎ましく過ごすアダムの元に、神殿から助祭としての資格が送られてきた。神殿で登録を得た後、自分の町へ帰る際、乗り込んだ馬車が大規模の竜巻に巻き込まれ、アダムは越えてはいけない国境を越えてしまう。  アダムが目覚めると、そこはディガ王国と呼ばれる獣人が暮らす国だった。竜巻により上空から落ちて来たアダムは、ディガ王国を脅かす存在だと言われ処刑対象になるが、右手の刻印が聖天を示す文様だと気が付いた兵士が、この方は聖天様だと言い、聖獣王への貢ぎ物として捧げられる事になった。  竜巻に遭遇し偶然ここへ投げ出されたと、何度説明しても取り合ってもらえず。自分の家に帰りたいアダムは逃げ出そうとする。 ※私の小説で「大人向け」のタグが表示されている場合、性描写が所々に散りばめられているということになります。タグのついてない小説は、その後の二人まで性描写はありません

処理中です...