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おまけ 66
しおりを挟む触手がじゅるじゅると音を立てながら動き、青年の白い肌の上を這いまわる。
そうすると粘液が皮膚の上の広がって、やがてとろとろと滑り落ちて滴っていくのがやけに煽情的で、思わずもぞりと膝を擦り付けなくてはならなかった。
けれど……
「ぅ……」
ガチ と奥歯が鳴って震えが起こる。
目の前で行われていることに理解が追いつかなくて、人のそう言った行為を見るのは酷く恥ずかしいことだと理解しているのにどうしても視線がそれを追いかけてしまう。
鈍色の肌と触手の髪、片手は肩から少し下ったあたりの中途半端な位置で千切れていてない。
目も片目は潰れているのか閉じられたままだったが、残った眼はらんらんと開かれて昏く光る金色だ。よくよく見れば足の先は両方とも潰れていて……人の形をとってはいたが壊れて打ち捨てられた人形のようにも見える。
そんな生き物の形ばかりを真似たものと……青年は……
「 ぁ、っ」
官能的な喘ぎ声が上がる度にそれにまたがっている青年の体がくねるように動き、自ら進んで愛撫するように触手を撫でては口に含んでちゅぱちゅぱと唾液を絡めて舐め上げている。
鈍色の肌の中心に腰を下ろして腰を振っている青年は、もうその行為に夢中になって目の前の相手が異形だと言うことに気を向けていないように思えた。
嬉しそうに、かすれた喘ぎ声を上げ続ける青年に物を尋ねることもできず、だからと言ってあの魔人に声をかけることもできず、オレにできたのは塞ぐことのできない耳から入ってくる音に気を取られないように息を詰めることだけだった。
「もう、おしまいだよ」
喘ぎにまみれた声がそう告げた時、一瞬じゅる と粘膜のこすれ合う音が止まった。
「今日はもう限界、終わり」
まるで小さな子供に言い聞かせるように言う声に顔を上げると、青年が愛おしそうに魔人の額の角に口づけをしているところだった。
愛情深い親が幼子の眠りの健やかさを祈るかのように、思いの込められた口づけは二人の親密な雰囲気を表しているようだ。
「 ゃ゛ ぁ゛!」
破鐘のような声に思わず体が跳ねる。
それはあの暗い森の中でオレに向けて発せられた泣き叫ぶ声だったから……あの時のことを思い出して、体中からぶわりと汗が噴き出す。
「や゛ぁ! や゛ぁ゛っ!」
「いい子。治したらまた相手してあげるから」
そう言ってちゅっとまた口づける。
まるでそれに鎮静効果があったかのように、魔人は絞り出していたかのような声をだんだんと小さくして、やがて黙り込んでしまった。
粘液のねばつく音も声も何も聞こえないと辺りはしんと静まり返っていて、オレはそこでやっと辺りに何もないんだって理解した。
「 ────じゃア、あっぢ 」
それは弾けるように耳を打った。
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