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おまけ 62
しおりを挟む異界からの巫女とコリン=ボサ神の間でどのようなやり取りがなされているのか、それがどう言ったものなのかは巫女達の秘儀であり、一般人が口出しするものでも、ましてや窺っていいものではない。それはこの世界の住人ならば生まれた時から教え込まれる常識でもある。
「だから、疑問になど思うこともなかったが……」
小刀の切っ先で引っ掻くように瘴気に傷をつけると、パキパキと小さな小枝を踏みしだくような音がして、細かく砕けで消えていってしまった。
灰のように臭いもなく、吸い込んで咳き込むと言うこともない。
元からそこに何もなかったかのように、巫女の力に触れた瘴気はこうして消えてしまう。
「……摂理に沿うものではないな」
この世に存在して、物理的にこちらに干渉することができるのならば何らかの形を遺して然るべきなはずだ。
────!
自分が気づくよりも早く耳が微かな音を拾ってピクリと反応した。
忙しなく耳の筋肉が攣れて思考を引き摺り戻すと、辺りは凪いだような静けさに包まれている。
凪いだ。
先程までは多くはなくともそこらかしこに動物達の気配があったと言うのに、今この耳に拾うのは風が立てるわずかに木々を揺する音だけだった。
得意武器の長剣ではなく、小回りの利く短剣を構えて辺りを睨みつける。
ひゅ と風切りの音に駆け出すと、それ追いかけるように水っぽい音が二三響いてから異臭が鼻を突く。
それを簡単に表現してしまうなら、腐臭 だ。
瘴気が動物の体を犯し、入り込み、蹂躙の限りを尽くすと魔物となる。しかし時間が経つとその動物の体が腐り始めやがて腐臭を放ち始める。
それが、一つ、二つ……
「いや、もっとだ」
嗅ぎたくもない腐敗臭に意識を集中してみれば、その臭いの中に腐敗の進み具合が違う物が混じっているのに気が付いた。
それらが確かな意思を持ってこちらへと向かってくる。
もう、間違いはないだろう。
ここの瘴気と魔物は何らかの意図を持ってこちらに襲いかかってきているし、群れない瘴気達が集団で意図的な行動をとっていると言うことは先導する何かがいると言うことだ。
「はるひっ」
その元には、きっとはるひがいるはずだ。
きっとそこに居る。
きっと生きている。
奥歯を噛み締めながら飛び掛かってきた魔物に向けて短剣を翻す。
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