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おまけ 60

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 ここにはかつて、鈍色の肌をした、人の形を取りながら明らかに人ならざるモノだった魔人がいた。

「……それが、人を乗っ取って成るモノだったとは」

 いや、その可能性は昔から言われてはいたのだ。

 瘴気が動物の体を乗っ取るのは確認はされていた、だから、人も乗っ取るのではないのかと言う話は、度々論争の的となってはいた。
 
 だが如何せん証明すること自体が困難なため結局はただの憶測でしかなかった。そしてそんな話の中の一つに、人は無理でも、人と動物を混ぜて作られた我らならばその可能性があるのではないか と言う意見があるにはあったが……

「事実だと知ったのが、顔見知りだったからと言うのが腹立たしい」

 立場上、大きく関わることがあったと言う相手ではなかったが、それでも顔や名前は知っている相手だった。
 回収できる遺体は可能な限り回収したし、それが叶わない者はせめて遺品だけでもと、自分なりに善処することが出来たと思ってはいたが、まさか隊の仲間をこんな形で使われるとは。

 つまり、瘴気達にとって人は辱め食らうためだけの存在ではないと言うことだ。
 
「……はるひを連れ去った理由が 」

 またふいに埒も明かない嫌な考えに襲われそうになって、慌ててぎゅ と皮手袋を嵌めた手を握り込む。

 拳を包み込み、それに額を付ける動作はコリン=ボサへの祈りの形だ。

 自分自身は敬虔な とは言い難い信徒ではあるけれど、それでもはるひは神の寵愛の厚い巫女の弟であるのだから、多少なりとも守って下さるはずだ。

「我らが父であり、この地に命を遣わされたコリン=ボサよ。どうか   」

 どうか、

 どうか、

 はるひを護って下さい。




 飛び掛かってきた物体を反射的に避けると、小刀でソレを切りつける。

 するとずるりと腐臭を放つ皮が剥がれ落ち、パキパキと言う小枝を踏む折るような音が響いて中にいた瘴気が崩れ去った。
 
 そうすると、後には何も残らない。
 そんな程度の存在なのに、コレ は人を脅かす。

「……増えて、来ているな」

 聖別されたために銀の光を纏う小刀を鞘に納めながらぼやいた。

 決して多いわけではなかったが、それでも遭遇率は他の地域よりはるかに多いと言わざるを得ない。俺の勘違いだと思いたい気持ちもなくなはかったが、事実は受け入れなくてはいけない。



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