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おまけ 59
しおりを挟む「お怪我をして動けなくなることもあるでしょうから、お名前だけでも伺わせてもらえませんかね?」
「…………」
「皆で探しに参りますので」
名を告げるかどうしようかと、逡巡してから緩く首を振って歩き出す。
何事もなければ帰ってくることができる。
何かあって帰ることができない時は、そもそもこの村の人間達では手に負えないようなモノがいたと言うことだ。
そんな状況ならば、遠くないタイミングで新たに編成された隊が派遣されるはずだから、それまでは山にいるモノを刺激するようなことを控えるに越したことはない。
店主は追いすがってまで俺を止めるようなことはしなかったが、店からずいぶんと離れるまでその視線は俺を追いかけていた。
ぶるりと体が震えそうになったのを感じて、反射的に足を止めて息を詰める。
たった一人で黙々と目的地まで足を運んでいると、ふとした瞬間に様々な嫌な想像が意識の隙間に抉るように入ってきては、はるひの身を案じる心を責め立てたからだ。
それは時に、自分の不甲斐なさだったり、
または、今まさにはるひの命の火が消えるのではと言う危惧だったり、
もしくは、泣き叫んでいるのではないか と安否を気遣うものだったりした。
「 っ、はるひ は、大丈夫だ」
呻くように言い、気を散らすその考えを振り払う。
気もそぞろでは何か大事な手掛かりを見落としてしまうかもしれない。
「……少し、休むか……」
以前ここを訪れた時は隊を組み、かすがの護衛として参加していたが、その時の変わりようを噛み締めながら顔を上げた。
木々の間から見える灰色だった空は澄む青に彩られて煌めいているし、瘴気の存在のせいで近寄ることのなかった動物達の気配がそこかしこでする。
以前は、食料を探すのにも一苦労するような状況だったが……幸い、現地調達で賄えそうだとほっと息を吐く。
兵站に苦労した記憶しかなかったが、これだけ食材があるのならば手持ちの食料がなくなっても、一人ならば十分食べていけるだろう。
「……巫女様はここを、臍だ と言っていたか」
かすががコリン=ボサ神から聞いた と言うのだから、確か過ぎる筋の話だ。
神から直接賜った知識を、疑う気はない。
ここは世界の中心で、あらゆる流れがここに集まる場所であり、始まりの場所なのだ……とある時ぽつりと漏らしたことがあった。この地に淀みや澱が集まるようになっているから、ここが瘴気や魔物、そして魔人にとって暮らしやすい状態に整えられてしまうのだと。
だからここに溜まり、病むのだ と。
それを防ぐための儀式だと、俺には良くわからない何かを行ってはいたが……
幾ら歴代最高の寵愛を受けているとは言え、そう言う場所を完璧に浄化してその状態を保ち続けると言うのは、難しいと言うことなんだろう。
時折見かける木の枝に名残のように絡まった瘴気は見かけるが、その程度のものだった。
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