狼騎士は異世界の男巫女(のおまけ)を追跡中!

Kokonuca.

文字の大きさ
上 下
183 / 303

おまけ 59

しおりを挟む




「お怪我をして動けなくなることもあるでしょうから、お名前だけでも伺わせてもらえませんかね?」
「…………」
「皆で探しに参りますので」

 名を告げるかどうしようかと、逡巡してから緩く首を振って歩き出す。

 何事もなければ帰ってくることができる。
 何かあって帰ることができない時は、そもそもこの村の人間達では手に負えないようなモノがいたと言うことだ。

 そんな状況ならば、遠くないタイミングで新たに編成された隊が派遣されるはずだから、それまでは山にいるモノを刺激するようなことを控えるに越したことはない。
 店主は追いすがってまで俺を止めるようなことはしなかったが、店からずいぶんと離れるまでその視線は俺を追いかけていた。
 
 


 ぶるりと体が震えそうになったのを感じて、反射的に足を止めて息を詰める。

 たった一人で黙々と目的地まで足を運んでいると、ふとした瞬間に様々な嫌な想像が意識の隙間に抉るように入ってきては、はるひの身を案じる心を責め立てたからだ。

 それは時に、自分の不甲斐なさだったり、
 または、今まさにはるひの命の火が消えるのではと言う危惧だったり、

 もしくは、泣き叫んでいるのではないか と安否を気遣うものだったりした。
 
「  っ、はるひ は、大丈夫だ」

 呻くように言い、気を散らすその考えを振り払う。

 気もそぞろでは何か大事な手掛かりを見落としてしまうかもしれない。

「……少し、休むか……」
 
 以前ここを訪れた時は隊を組み、かすがの護衛として参加していたが、その時の変わりようを噛み締めながら顔を上げた。

 木々の間から見える灰色だった空は澄む青に彩られて煌めいているし、瘴気の存在のせいで近寄ることのなかった動物達の気配がそこかしこでする。
 以前は、食料を探すのにも一苦労するような状況だったが……幸い、現地調達で賄えそうだとほっと息を吐く。

 兵站に苦労した記憶しかなかったが、これだけ食材があるのならば手持ちの食料がなくなっても、一人ならば十分食べていけるだろう。

「……巫女様はここを、臍だ と言っていたか」

 かすががコリン=ボサ神から聞いた と言うのだから、確か過ぎる筋の話だ。

 神から直接賜った知識を、疑う気はない。

 ここは世界の中心で、あらゆる流れがここに集まる場所であり、始まりの場所なのだ……とある時ぽつりと漏らしたことがあった。この地に淀みや澱が集まるようになっているから、ここが瘴気や魔物、そして魔人にとって暮らしやすい状態に整えられてしまうのだと。

 だからここに溜まり、病むのだ と。

 それを防ぐための儀式だと、俺には良くわからない何かを行ってはいたが……

 幾ら歴代最高の寵愛を受けているとは言え、そう言う場所を完璧に浄化してその状態を保ち続けると言うのは、難しいと言うことなんだろう。
 時折見かける木の枝に名残のように絡まった瘴気は見かけるが、その程度のものだった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

転生したらオメガだったんだけど!?

灰路 ゆうひ
BL
異世界転生って、ちょっとあこがれるよね~、なんて思ってたら、俺、転生しちゃったみたい。 しかも、小学校のころの自分に若返っただけかな~って思ってたら、オメガやベータやアルファっていう性別がある世界に転生したらしく、しかも俺は、オメガっていう希少種の性別に生まれたみたいで、は?俺がママになれるってどういうこと?しかも、親友の雅孝をはじめ、俺を見る目がなんだか妙な感じなんですけど。どうなってるの? ※本作はオメガバースの設定をお借りして制作しております。一部独自の解釈やアレンジが入ってしまう可能性があります。ご自衛下さいませ。

オメガ転生。

BL
残業三昧でヘトヘトになりながらの帰宅途中。乗り合わせたバスがまさかのトンネル内の火災事故に遭ってしまう。 そして………… 気がつけば、男児の姿に… 双子の妹は、まさかの悪役令嬢?それって一家破滅フラグだよね! 破滅回避の奮闘劇の幕開けだ!!

逃げる銀狐に追う白竜~いいなずけ竜のアレがあんなに大きいなんて聞いてません!~

結城星乃
BL
【執着年下攻め🐲×逃げる年上受け🦊】  愚者の森に住む銀狐の一族には、ある掟がある。 ──群れの長となる者は必ず真竜を娶って子を成し、真竜の加護を得ること──  長となる証である紋様を持って生まれてきた皓(こう)は、成竜となった番(つがい)の真竜と、婚儀の相談の為に顔合わせをすることになった。  番の真竜とは、幼竜の時に幾度か会っている。丸い目が綺羅綺羅していて、とても愛らしい白竜だった。この子が将来自分のお嫁さんになるんだと、胸が高鳴ったことを思い出す。  どんな美人になっているんだろう。  だが相談の場に現れたのは、冷たい灰銀の目した、自分よりも体格の良い雄竜で……。  ──あ、これ、俺が……抱かれる方だ。  ──あんな体格いいやつのあれ、挿入したら絶対壊れる!  ──ごめんみんな、俺逃げる!  逃げる銀狐の行く末は……。  そして逃げる銀狐に竜は……。  白竜×銀狐の和風系異世界ファンタジー。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

処理中です...