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おまけ 51
しおりを挟むでも、大人になってから召喚されたミロクやかすが兄さんは、向こうの世界を良く知っているだけに生活環境の違いに苦労したんだろうなって想像は簡単だ。
「 悪かったな」
突然の謝罪は理由がわからなくて、「へ?」と間抜けな声が出た。
そのことに対してか、それとも自嘲の笑みだったのかはわからないけれど、ミロクはまた小さく乾いたような笑いを零して「なんでもない」と短く答える。
「うん、大丈夫そうだ。そこのランプに火を入れて持って行くといい」
指示された先には手に持つのにちょうどよさげなランプが置かれていて、ミロクにヒロを預けてそれを持ち上げた。
見た目以上に軽いランプに火を灯そうとして、中の芯がずいぶんと黒いことに気が付いた。このままでも使えないことはないけれど、芯を切ってやれば火の明るさも増すし、火の形を整えることもできる。
「ちょっと芯が伸びてるので切らせてください」
「いいって、どうせこの通路だけなんだから……っとに、細けぇやつだな。そこのテーブルんとこ、マッチとナイフが入ってたはずだ」
暗い道に興味を示して手を伸ばすヒロをあやしながら、ミロクはやれやれと肩をすくめてみせた。
「すぐに済ませます」って返事をして、テーブルの引き出しを探ると中には小型のナイフや、マッチなんかが入れられている。
こんな場所にあるのだから日常遣いと言うわけでもないのに、精巧な作りの鞘と柄を持つナイフをそろりと持ち上げた。
「早くしろよー!ちびが早く探検したいってよ」
「は、はい!」
綺麗に手入れのされてあるそれはよく切れそうで、慎重にランプのガラスカバーを外そうとした時だった。
ミシリ とした軋みも何もなく、一瞬で薙ぎ払われた一階への扉が吹き飛んで……
「 っ!」
腹の底に響くようなどぉん と言う音がして、吹き飛ばされた扉が……いや、扉と一緒に投げ飛ばされてきたロニフが床の上で小さく呻き声を上げた。
束ねられていた長い黒髪が四方八方に散って、根元から刃が折れた大剣がその隙間に落ちてギラリと光を反射する。
どうしてそうなったのか理解が追いつかず、ロニフの心配をする前に「え?」と間抜けな声が口から漏れた。
「姐さんっ‼︎」
黒い隠し通路からミロクの悲鳴のような呼びかけの声が聞こえて、そちらに顔を向けた瞬間背中にゾワリと悪寒が走る。
背を向けては、いけないって。
隙を見せては、いけないって。
クラド達ではないけれど、本能に近い何かが心の中で叫んだ。
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