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おまけ 50

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 思い切り蹴りつけてみても、木箱はびくともしない。
 なるほど……確かにこれがあれば通路は発見されにくいだろうけれど、同時に入ることもできない。もっとも、オレ達では動かすのが難しい木箱でも、クラド達ならば軽々と動かしてしまうのだからそんな気はないのだと思う。

「お前達だけはちゃんと逃がしてやるから安心しろ」

 そうは言うも顔は顰められたままだ。

「……中身出して動かすか」
「あ、隅を少し浮かすことってできますか?」
「うん?浮かすだけならまぁ……」

 ヒロの荷物を詰めた中から涎なんかを拭く布を四枚取り出し、ミロクに頼んで一隅一隅にその布を敷いていく。

 テリオドス領での生活は楽しいことばかりだったけれど、王城の暮らしとは正反対の生活だったから、そこの知識が役に立つ日が来るなんて思わなかった。

「これで動くと思います」

 滑り止めのついた厚手の手袋が最適だ とマテルには言われていたけれど、人が通れるくらいに動かすくらいならこれで十分だ。
 あの小さな家で、ヒロがお腹にいるオレと見るからにか弱いマテルとで家具の位置を変える時に使った手段だった。

「お!動くぞ」

 先程のように木箱に組み合う姿は同じだったけれど今度はきちんと動いたようで、ずりずりと物が動く音が聞こえてくる。

「すげぇな、よく知ってたな!」
「はい!」

 王城で暮らす人間にとっては全く役に立たない知識だし、知っていてはいけない知識でもあったから、もう一生使うことのない知識だと思っていたけれど、テリオドス領での生活を褒められた気がして思わず笑顔で答えた。

 そんなオレの顔を見て、ミロクが一瞬くしゃりと顔を歪ませる。

「それが素だよな」

 はは と乾いた……と言うよりは萎れたような笑い声を漏らしながら、ミロクはできた隙間に体を入れて抜け道がないかを探り出した。

「あの  」
「いや、お前もさ、元の世界だとあれだろ、お貴族様とか全然関係のない生活だったんだろ?」
「あ……はい」

 向こうの生活を思い出しても、もうおぼろげでどんな風に生活していたかなんてはっきりとはしないけれど、それでも人にかしずかれて指の先にまで気を遣うような、そんな生活ではなかった。
 同じくらいの年の子供と、転げ回るようにして遊んだりケンカをしたり……

 はしゃいで暮らしたあの生活は、今とは全く違う。

「俺は、未だに馴れねぇよ」

 そう言いながらミロクは壁と見分けのつかない扉をゆっくりと開き、そっと中を覗きこんで安全を確認している。

「落とした箸一本、自分で拾えない生活なんてな」
「そう、ですね  」

 幼すぎてよくは覚えていないけど、オレはまだ小さかったから馴れることも簡単だったと思う。



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