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おまけ 44
しおりを挟むずるずると陛下を引き摺る音の響く廊下に向かうと、不満そうな陛下の声が聞こえてくる。
「今は瘴気も来ているだろう。明日にしてはどうだ?」
その呑気そうな声音はミロクが怒っている理由を知っていながら、意味が分かっていないのだとオレに教える。
向こうの知識の乏しいオレでも、伴侶が他の人間に手を出したと聞かされれば悲しい。
怒りが湧くのかどうかは実際にその時になってみないと分からないことではあるのだけれど、クラドがもし他の人も愛したのだと知れたら、きっと苦しさで潰れてしまうだろう。
王族だから。
血筋を残すことが義務だから。
そんな理由をつけられても、きっとオレはその事実を飲み込み切れない。
ミロクの心の内を思うと、言葉を挟むことはできなかった。
「 っざけろよ」
パリ と頬を何かが掠めたのはその瞬間で、目の端を走って行く白い光の筋に怯んで立ち竦む。
「全部ぶっ潰しててめぇを放り出してやるよっ!」
小柄とは言え成人男性一人を投げて放り出し、ミロクはそう吠えて屋敷の玄関扉を蹴り開けると、繊細とは言い難い手を空へと向けた。
──── チ
それは、小さな舌打ちにも似た音だった。
けれど次の瞬間その音は幾本も幾本も束ねられて大音響となって鼓膜を震わせる。
上背のあるミロクだけれど、内側から押されるように衣服がはためいたせいか更に大きく見えて……
「────っ」
ぞわりと悪寒を感じて思わずヒロを頭から上着で包み、逃げるように廊下にうずくまる。
そうするオレのすぐ目の前を白い光がまたも走り抜けて、キラキラと光るそれがかすが兄さんが操る神の力と同じものだと分かった時には、一瞬で遠くに放たれた光の塊が空気を割裂きながら雷のように地面につき立った時だった。
網膜を焼くのでは と思わせる光が存在したのは刹那だったのに、その存在感は畏怖を抱かせるのには十分で、腕の中のヒロがビクンと体を跳ねさせた後に泣き出すまで、オレの思考はその白い光に塗りつぶされて他の事柄は一切考えることができなかった。
「ぅー あ゛、ぁぁん、あ゛ っ」
オレを正気に戻すその泣き声は大きく、はっとなって慌ててヒロを揺さぶってあやす。
「び、びっくりしたねぇ!でも大丈夫!大丈夫だよ!何も怖いことなんか……」
と、ヒロに言ってはみるけれど自信はない。
オレにとって巫女の力と言うのは柔らかに光り、溢れるように零れて沁み込むように空気に溶けて馴染む優しいものだった。
恥ずかし気にきらきらと煌めいて、光を躍らせる力だと信じていただけに、耳鳴りが残るほど激しい力の放出を目の当たりにして、正直どうしていいのかわからない。
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