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おまけ 36
しおりを挟む「魔物だ」
「っ!」
実際に魔物に襲われたはるひだからこそ、俺の言葉を重く受け止めてくれたようだった。
手早く着替えて荷物とヒロを抱き上げると、神妙な顔で俺に向かって頷く。
「母と俺は出るが、はるひは陛下達と共に地下へ行ってくれ」
「そ 」
言い返そうとした言葉を飲み込むのが分かる。
ここでどうにもならない押し問答をしている余裕はないのだと察してくれたらしい、物わかりの良さは有り難かったが反論の余地を奪ってしまった申し訳なさもあって、なんの許しにもならないけれどふわふわとしたはるひの髪を撫でた。
「巫女様がゴトゥスを祓われて、今いるのは残党のようなものだ。母もいる、心配するな」
それでも、油断は出来ないことは良くわかっている。
「ヒロ、お前がはるひを守るんだぞ」
寝ているところを抱き上げられて、ぼんやりと目を醒ましているような息子の鼻をちょんちょんと突いてやると、暗闇で銀色に光る目が不思議そうに俺を見た。
「頼んだぞ」
すでに一階で待ち構えていた陛下達にはるひとヒロを託し、「ないよりマシだろう」と言いながら手渡された小刀の束をミロクから受け取る。
聖別されたばかりだからか、暗闇の中でぱりぱりと小さな雷光を纏うそれを有り難く受け取り、屋敷の外へと走り出す。
生温い風に頬を嬲られて、不快さに思わず顔をしかめてそれが運んでくる臭いに自然と眉間に皺を寄せた。
端的に言えば、腐臭。
瘴気が死んだ生き物に憑くのだから間違いはないのだろうが、それでも瘴気が憑りついたせいか純粋な腐臭とも違う臭いだった。
「……なんだ?」
その臭いが鼻の奥に入り込むとゾクゾクするような悪寒が脳の中を揺さぶるようで、不愉快さに長剣を握る手に自然と力が籠る。
かすががゴトゥス山脈を浄化した結果、国内に残っている瘴気や魔物は僅かなもので、それも日々国の兵士達が討伐に勤しんでいるために数が減っているはずだった。なのに……鼻を衝く臭いの濃さはそんなことを感じさせないもので、噎せ返るような瘴気と魔物の気配を漂わせていた。
濃く、地を這うような、あまりにも重い気配。
「 部下を連れてくるべきだったか」
先代陛下に会うのだから と、俺の部隊には留守番を言いつけてきた。
安全のために同行を申し出る者もいたが、武力を伴って訪れると二心を疑われかねない心配があったせいでもある。
もっとも、もし連れて来れたとしても、この場所をぐるりと囲む壁から中へ連れて入ることはできなかっただろうから、結果は変わらないだろう。
「 ────」
暗い中に、騒がしい気配だけが届いてくる。
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