157 / 303
おまけ 33
しおりを挟むカァ と顔の熱さを手の甲で確認してから、部屋に一人だけと言う特権を生かして尾をバタバタと振り回す。
はるひ曰く、太くて黒くて立派な尾が風を送ってくれて少しは涼むが、それでも顔の赤みは引いてはくれていないように思える。
「なんなんだ 母上も 」
母への思いを見透かすようなはるひも!
小さく呻いて、赤い顔を隠すように突っ伏した。
とんとんとん と押し殺してはいるが、俺の耳ははっきりとはるひの足音を拾ってぴくりと自然に動く。
顔 は……
「 っくそ」
まだ熱い気がする顔を隠すために頭からベッドに潜り込み、寝ているふりを装うことにする。
せっかくいつもとは違う状況なのだから、二人のんびりと様々な話をすることもできるだろうけれど、この顔をはるひに見られるのはどうにも気恥ずかしかった。
本来なら、はるひに母のことを尋ねるべきなのだろうが……
「 ────クラド様が寝てるから、しぃーだよ?」
小さくピンク色の唇に指を押し当ててヒロに言い聞かせているのかと思うと、艶を含むはるひの唇が指に押されているのを見たくてたまらなくなったけれど……ぐっと我慢して寝たふりを続ける。
「 」
小さく軋む音はヒロを赤ん坊用のベッドに寝かせた音だろうか?
はるひがヒロをベッドに寝かせ、最後に愛おしそうに頭を撫でて離れていく光景を見るのが好きだ。はるひの産んだ俺の子に溢れんばかりの愛情を持ってくれているのだと、見る度に思えるから。
それを見たくて、むずむずとするけれど振り返ることは出来ず、そっと顔に触れてみるけれど頭を覆っているせいか顔がまだ赤いのかそれとも熱がこもって熱いのか判断できなかった。
どうにかできないものかと思案していると、ベッドがギシ と微かな軋みを上げて少しだけ沈み込んだ。
「クラド様、起きてらっしゃるんでしょう?」
少し咎めるようでもある声音は、けれど完全にからかいのそれだった。
「……ばれていたのか」
「だって普段、団子になって寝るなんてことないじゃないですか?」
なるほど と思いながら起き上がった俺を見て、はるひは小さく笑って見せる。
かすがのような銀でできた薔薇が咲くような笑みではなく、温かな色合いの可愛らしい花があたり一面に咲き誇るような、どこまでも俺好みの笑い方だ。
「顔が赤いですよ?熱ですか?」
そっと小さな手が顔を包み込んできて、恥ずかしいから触れて欲しくないと思いつつも、反面では嬉しくて今にも尾を振ってしまいそうになる。
もう子供もいるし、兄に婚姻許可証を出してもらって正式な伴侶だけれど、やはり幼い頃から言い聞かされていたせいか人の前で尾を振るのは行儀が悪いと思ってしまうのはしかたがない。
理性を総動員させて尾を宥めながら、頬を包む手を取って口付ける。
4
お気に入りに追加
491
あなたにおすすめの小説

【完結】元騎士は相棒の元剣闘士となんでも屋さん営業中
きよひ
BL
ここはドラゴンや魔獣が住み、冒険者や魔術師が職業として存在する世界。
カズユキはある国のある領のある街で「なんでも屋」を営んでいた。
家庭教師に家業の手伝い、貴族の護衛に魔獣退治もなんでもござれ。
そんなある日、相棒のコウが気絶したオッドアイの少年、ミナトを連れて帰ってくる。
この話は、お互い想い合いながらも10年間硬直状態だったふたりが、純真な少年との関わりや事件によって動き出す物語。
※コウ(黒髪長髪/褐色肌/青目/超高身長/無口美形)×カズユキ(金髪短髪/色白/赤目/高身長/美形)←ミナト(赤髪ベリーショート/金と黒のオッドアイ/細身で元気な15歳)
※受けのカズユキは性に奔放な設定のため、攻めのコウ以外との体の関係を仄めかす表現があります。
※同性婚が認められている世界観です。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

【後日談完結】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~
ばいむ
ファンタジー
剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。
高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。
特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長していった。
冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、そして・・・。
初投稿というか、初作品というか、まともな初執筆品です。
今までこういうものをまともに書いたこともなかったのでいろいろと変なところがあるかもしれませんがご了承ください。
誤字脱字等あれば連絡をお願いします。
感想やレビューをいただけるととてもうれしいです。書くときの参考にさせていただきます。
おもしろかっただけでも励みになります。
2021/6/27 無事に完結しました。
2021/9/10 後日談の追加開始
2022/2/18 後日談完結

【本編完結】異世界で政略結婚したオレ?!
カヨワイさつき
BL
美少女の中身は32歳の元オトコ。
魔法と剣、そして魔物がいる世界で
年の差12歳の政略結婚?!
ある日突然目を覚ましたら前世の記憶が……。
冷酷非道と噂される王子との婚約、そして結婚。
人形のような美少女?になったオレの物語。
オレは何のために生まれたのだろうか?
もう一人のとある人物は……。
2022年3月9日の夕方、本編完結
番外編追加完結。

聖獣王~アダムは甘い果実~
南方まいこ
BL
日々、慎ましく過ごすアダムの元に、神殿から助祭としての資格が送られてきた。神殿で登録を得た後、自分の町へ帰る際、乗り込んだ馬車が大規模の竜巻に巻き込まれ、アダムは越えてはいけない国境を越えてしまう。
アダムが目覚めると、そこはディガ王国と呼ばれる獣人が暮らす国だった。竜巻により上空から落ちて来たアダムは、ディガ王国を脅かす存在だと言われ処刑対象になるが、右手の刻印が聖天を示す文様だと気が付いた兵士が、この方は聖天様だと言い、聖獣王への貢ぎ物として捧げられる事になった。
竜巻に遭遇し偶然ここへ投げ出されたと、何度説明しても取り合ってもらえず。自分の家に帰りたいアダムは逃げ出そうとする。
※私の小説で「大人向け」のタグが表示されている場合、性描写が所々に散りばめられているということになります。タグのついてない小説は、その後の二人まで性描写はありません

藤枝蕗は逃げている
木村木下
BL
七歳の誕生日を目前に控えたある日、蕗は異世界へ迷い込んでしまった。十五まで生き延びたものの、育ててくれた貴族の家が襲撃され、一人息子である赤ん坊を抱えて逃げることに。なんとか子供を守りつつ王都で暮らしていた。が、守った主人、ローランは年を経るごとに美しくなり、十六で成人を迎えるころには春の女神もかくやという美しさに育ってしまった。しかも、王家から「末姫さまの忘れ形見」と迎えまで来る。
美形王子ローラン×育て親異世界人蕗
ムーンライトノベルズ様でも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる