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おまけ 23
しおりを挟む「お母様と、ゆっくりお話はできました?」
「ん?話……と言うよりは、やっぱり歯が立たないと実感しただけだった」
クラドの母親が歴史上類を見ないほど強い剣士だと言うことは聞いて知ってはいたけれど、オレに入ってくる情報なんてそれくらいで、たった一人で国を落とせるほどだった としかわからない。
オレとしては、たった一人でそれだけ強いなんて、まさにヒーローだな としか思えない人なんだけれど、そんな彼女に出迎えてもらってからこちら、侍女然とした姿しか見たことがなかったせいか、クラドの母親と言う部分ですら実感が湧かなくて、二人でいる姿を見ているはずなのにそこに親子の会話があったのかよく分からなかった。
「見ろ、これを」
そう言うとクラドは珍しくぱたりと尾を振る。
オレが毎晩櫛で梳き、保湿のオイルを塗っているためにクラドの尾はふさふさとしていながら艶のある漆黒で、その手触りもなめらかでいつまでも触っていたくなるようなのに……
「や……っぱり、そうですよね」
思わず呻き声が漏れる。
綺麗に先端に向けて美しい筆のように細る尾の先が途中でバッサリ切りそろえられてしまっていて……
気付いたのが晩餐時だったためにしっかりと確認することができなくて、目の錯覚かな?と思わなくもなかったのだけれど。
「太くて黒くて立派だったのに……」
「向こうの世界にはそう言う表現にこだわりでもあるのか?」
「え?」
「いや」
ぶるぶると首を振るクラドの後ろ髪と、片方の耳の毛も切り揃えられてしまっていることには触れない方がいいのか悩む所だったけれど、本人が気づいていないようだし……と口を噤む。
「少し整えてくれるか?これではあまりにも体裁が悪い」
もう一度ふさりと尾を振って自分の目で確認してから盛大な溜息を吐いて項垂れた。
いつものように尾を梳いている最中にこくりとクラドが舟を漕いだ。
珍しいこともあるものだと思いもするけれど、ここに来るために連日遅くまで仕事を詰めていたようだし、今日は今日でロニフと稽古をしたそうなので疲れていても当然だと思った。
本来なら、オレももう寝なくてはいけないのだけれど、枕が変わると眠れなくなる質なせいかまだ眠いとは感じない。
コシのある黒い前髪の隙間から、隈のある目元が見える。
今は閉じられているけれど、時折銀に光る黒い瞳を思い出すと胸がきゅっと苦しくなるような感覚に襲われた。
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