狼騎士は異世界の男巫女(のおまけ)を追跡中!

Kokonuca.

文字の大きさ
上 下
138 / 303

おまけ 14

しおりを挟む




 ゆったりとした動作でソファーに座り直すと、面倒そうな顔で俺とはるひの顔を交互に指差す。

「兄の妻に恋慕し、お互い満更でもないお前達はゴトゥス大遠征の名を借りて兄の目の届かぬ場所で蜜月を過ごし、土産を持って帰ってきた。だがそのままでは角が立つ、そこで弟の子とした と。出生時の日時を誤魔化すためにはるひには辺境まで行かせ……」
「違いますっ‼︎」 

 そんなでたらめを並び立てる陛下の言葉を遮ったのははるひの上げた大きな声だ。
 ぶるぶると震える拳を作り、普段気弱で穏やかな顔を怒りで赤く染めた姿は、どこの誰が見ても演技とは言わない迫力がある。

「ヒロはクラド様の子ですし、自分が産みましたっ」
「男巫女は子を成せるが巻き込まれた只人は子を成せない。神がそう定められた」
「テリオドス領にはっ私の出産に立ち会ってくれた産婆もいます!同時期に、忌屋に入っていた人もいましたっ証拠ならそれで十分ではないでしょうか!?」
「それではお前は只人の身で子を産んだと言い張るのだな?」

 青い瞳にぎろりと睨まれ、怒りで赤くなっていた顔から血の気を引かせながらはるひが頷く。

 不安に押し潰されそうなのか、胸の前で手を握り締めてふらついたはるひの傍に駆け寄り、出来る限り安心させたくてぎゅっと抱き締めた。

「私ははるひ以外を愛した記憶はございません、これからもないでしょう。己の考えの浅さから軽率な行動を取り、王陛下を始め陛下にもご不快な思いをさせてしまった事は重々承知ではございますが、ヒロの出生に関して陛下の推論は余りにもな物言いかと思われます」

 そう言って、可能な限りの力を込めて陛下を見詰め返す。

 じろじろと陛下を見るのも、生意気にも陛下の言葉に物申すのもこれが生まれて初めてのことだ。

 震えるはるひを支えると言う大義名分がなければ、陛下の正面に立って睨み返すなんてことは出来ないし、とっくに膝から床に崩れ落ちているところだろう。

「ヒロは私達の子です」

 ぐっとはるひを引き寄せ、互いの心臓の音を聞きながらそうはっきりと言うと、陛下の細い眉が不機嫌そうに歪んだのが見えた。

「   ────では、  」

 開きかけた口が途中で止まり、思案に耽るように微かに揺れて動かなくなってしまった。

 「では」の言葉の続きを待ってはみたけれど、陛下はまるで言葉を忘れてしまったかのようにむっとした表情で顔を逸らしてしまう。

 腕の中で、はるひが不安そうに俺を見上げた。



  ◇  ◇  ◇



 それでなくとも人との付き合いがうまい方ではないのに、クラドの父親……陛下と二人きりにされて、質素に見えて城の物よりも座り心地のいいソファーの上でもぞもぞと座り直す。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

馬鹿犬は高嶺の花を諦めない

phyr
BL
死にかけで放り出されていたところを拾ってくれたのが、俺の師匠。今まで出会ったどんな人間よりも強くて格好良くて、綺麗で優しい人だ。だからどんなに犬扱いされても、例え師匠にその気がなくても、絶対に俺がこの人を手に入れる。 家も名前もなかった弟子が、血筋も名声も一級品の師匠に焦がれて求めて、手に入れるお話。 ※このお話はムーンライトノベルズ様にも掲載しています。  第9回BL小説大賞にもエントリー済み。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

転生したらオメガだったんだけど!?

灰路 ゆうひ
BL
異世界転生って、ちょっとあこがれるよね~、なんて思ってたら、俺、転生しちゃったみたい。 しかも、小学校のころの自分に若返っただけかな~って思ってたら、オメガやベータやアルファっていう性別がある世界に転生したらしく、しかも俺は、オメガっていう希少種の性別に生まれたみたいで、は?俺がママになれるってどういうこと?しかも、親友の雅孝をはじめ、俺を見る目がなんだか妙な感じなんですけど。どうなってるの? ※本作はオメガバースの設定をお借りして制作しております。一部独自の解釈やアレンジが入ってしまう可能性があります。ご自衛下さいませ。

オメガ転生。

BL
残業三昧でヘトヘトになりながらの帰宅途中。乗り合わせたバスがまさかのトンネル内の火災事故に遭ってしまう。 そして………… 気がつけば、男児の姿に… 双子の妹は、まさかの悪役令嬢?それって一家破滅フラグだよね! 破滅回避の奮闘劇の幕開けだ!!

逃げる銀狐に追う白竜~いいなずけ竜のアレがあんなに大きいなんて聞いてません!~

結城星乃
BL
【執着年下攻め🐲×逃げる年上受け🦊】  愚者の森に住む銀狐の一族には、ある掟がある。 ──群れの長となる者は必ず真竜を娶って子を成し、真竜の加護を得ること──  長となる証である紋様を持って生まれてきた皓(こう)は、成竜となった番(つがい)の真竜と、婚儀の相談の為に顔合わせをすることになった。  番の真竜とは、幼竜の時に幾度か会っている。丸い目が綺羅綺羅していて、とても愛らしい白竜だった。この子が将来自分のお嫁さんになるんだと、胸が高鳴ったことを思い出す。  どんな美人になっているんだろう。  だが相談の場に現れたのは、冷たい灰銀の目した、自分よりも体格の良い雄竜で……。  ──あ、これ、俺が……抱かれる方だ。  ──あんな体格いいやつのあれ、挿入したら絶対壊れる!  ──ごめんみんな、俺逃げる!  逃げる銀狐の行く末は……。  そして逃げる銀狐に竜は……。  白竜×銀狐の和風系異世界ファンタジー。

処理中です...