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おまけ 12
しおりを挟む「クラド様っ」
ほっとした表情ではるひがこちらに来ようとするのを、陛下の手がやんわりと制止した。
特別力を込めているようには見えなかったけれど、人を留めておくには十分すぎたんだろう。はるひは困惑した表情のままたたらを踏むようにその場に留まり、どうすればいいのかと問いたげな眼がこちらを見て震える。
「騒がしい、下がれ」
兄があまりにも自由気ままなせいかすっかり鈍ってしまっていたが、陛下から発せられる威圧的な気配は国の頂点に立つ者に相応しいものだ。
「では あの、私も失礼し っ」
下がれ の言葉をあえて都合のいいように解釈したように見せかけて、はるひがさっとこちらに駆け寄ろうとしたのを陛下の手が掴み、ナイフとフォークしか持たないような腕がしっかりとはるひをそこに縫い付ける。
ぐ っとはるひの息を飲む音と、やけに大きい自分自身の心臓の音が聞こえた。
陛下の、流れ弾
そんな幻聴が聞こえた気がして、思わずひっと息が詰まりそうになった。
ネクト・イネリア・ラ・レラ・シルルはその体毛に現れたように、神に選ばれたのがなるほどと言わしめるほどの申し分のない王だった。
決して感情的になるわけでもなく、かつ広く意見を聞き貴族共をうまくいなし宥める術も持ち合わせていたし、国外に対しても一歩も引かず、けれど荒立てるような政治も行わなかった。
けれど唯一の欠点があった。
いや、王族の在り方とすればそれはなんの問題もなく、むしろ貴族の老獪共には褒め称えられるような欠点であったので、それを諫める事が出来る者は誰もいなかった。
英雄色を好むとはよく言ったもので、それはミロクを娶ったからと言って治まるものではなく……しかも引退した今でも衰えるようなものではなかったらしい。
「陛下……ヒロがそろそろ乳を欲しがる時間です、迎えに行かせてやってください」
干上がりそうになる喉に唾を押し込みながらそう告げると、陛下の物思うような瞳が俺を見てからはるひを見る。
頭の天辺から足の爪先までを舐めるように見て、眇めるように目を細めた。
「 ────只人が、本当に子を成すのか試すのも一興だな」
ざわ と体中が総毛立つ。
「陛下っ‼︎」
腰に添えられた手がピクリとでも動けば、してはいけないことだとはわかってはいても、刀身の細ってしまった長剣の柄に手を伸ばしてしまいそうだった。
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