128 / 303
おまけ 4
しおりを挟む現王であるクルオスとそっくりな青い瞳に見つめられてヒロは泣くんじゃないかとハラハラしていたが、幸いにして細い尻尾をピコピコと左右に振って見せる。
「この子だね。ああ、真っ白だ」
「はい」
ヒロと同じく白い髪と白い耳と尾を見ると、この子の将来を突き付けられた気がして息が詰まりそうな気分になるのは、まったく関係のなかった王位なんてものが降ってわいたからだ。
オレにしがみつきながらもきょとんとして視線を逸らさないヒロを見下ろし、陛下は小さく唇の端を上げて目を細める。
「物おじしない子だ」
「ありがとうございます」
そう返すもののこの後の会話を思いつかず、思わず助けを求めるようにクラドの方をちらりと見ると、オレの意を汲んだのか緩く頷く。
「生まれて半年になります、私ではなくはるひの性質を良く引いているようです」
「ああ、うん、話は聞いているよ」
おかしそうに笑いを含ませた声音でそう言うと、ふぃ と視線を逸らして窓の外を見る。
「随分と面白いことになっていたそうだね」
「いえ……それは 」
「クルオスから『明らかにクラドの子なのに狐の子だと言い張ってる』って手紙が届いてな」
そう言うと陛下は何かを思い出したかのように、ふ と吹き出して肩を揺らす。
クラドと顔を見合わせて……そんなことまで報告されていたのかと、顔が熱くなるのを止められなかった。
「煩わせまして、申し訳ありません」
「いや、うん。なかなか面白かったよ」
そう言ってから頷くと、「ちょうどいいタイミングだろう」と先程からちらちら見ていた窓の方へと顎をしゃくる。
その窓から見えるものは、ここに来る途中で見た建築中の建物で……
視線に倣ってまじまじとそちらを見ると、屋根に上っていた職人が梯子を下りたり、道具を簡単に片づけているのが目に入る。
今から休憩なのだろうか?と、クラドを見上げてもクラドもいまいちよくわからないと言うような顔だ。
「こちらにおいで」
そう言うと陛下は滑らかな動きで部屋を出て行く。
その動きは淀みがなく、息子とは言え客人に伺いを立てるようなものでは一切ない。
自分の動きに周りがすべて合わせてくれることに慣れた人間の動きだった。
お互いに視線で会話してみても陛下が立ち止まることはなく、クラドが小さく頷くのに促されてその後を追う。
寄木細工の廊下を進み、深い飴色の重厚な扉を押して外へ出ると、さっと視界が開けて緑の海原と、それと視界を二分する青い空が見えた。
それ以外には何もない、あまりにも牧歌的な光景だ。
こちらを振り返りもしないでスタスタと歩いていく陛下に従い、前国王が住んでいると言われても信じることのできない大きさの館を振り返る。
14
お気に入りに追加
491
あなたにおすすめの小説
馬鹿犬は高嶺の花を諦めない
phyr
BL
死にかけで放り出されていたところを拾ってくれたのが、俺の師匠。今まで出会ったどんな人間よりも強くて格好良くて、綺麗で優しい人だ。だからどんなに犬扱いされても、例え師匠にその気がなくても、絶対に俺がこの人を手に入れる。
家も名前もなかった弟子が、血筋も名声も一級品の師匠に焦がれて求めて、手に入れるお話。
※このお話はムーンライトノベルズ様にも掲載しています。
第9回BL小説大賞にもエントリー済み。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる
ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
※Rシーンには♡マークをつけます。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

転生したらオメガだったんだけど!?
灰路 ゆうひ
BL
異世界転生って、ちょっとあこがれるよね~、なんて思ってたら、俺、転生しちゃったみたい。
しかも、小学校のころの自分に若返っただけかな~って思ってたら、オメガやベータやアルファっていう性別がある世界に転生したらしく、しかも俺は、オメガっていう希少種の性別に生まれたみたいで、は?俺がママになれるってどういうこと?しかも、親友の雅孝をはじめ、俺を見る目がなんだか妙な感じなんですけど。どうなってるの?
※本作はオメガバースの設定をお借りして制作しております。一部独自の解釈やアレンジが入ってしまう可能性があります。ご自衛下さいませ。

オメガ転生。
桜
BL
残業三昧でヘトヘトになりながらの帰宅途中。乗り合わせたバスがまさかのトンネル内の火災事故に遭ってしまう。
そして…………
気がつけば、男児の姿に…
双子の妹は、まさかの悪役令嬢?それって一家破滅フラグだよね!
破滅回避の奮闘劇の幕開けだ!!
逃げる銀狐に追う白竜~いいなずけ竜のアレがあんなに大きいなんて聞いてません!~
結城星乃
BL
【執着年下攻め🐲×逃げる年上受け🦊】
愚者の森に住む銀狐の一族には、ある掟がある。
──群れの長となる者は必ず真竜を娶って子を成し、真竜の加護を得ること──
長となる証である紋様を持って生まれてきた皓(こう)は、成竜となった番(つがい)の真竜と、婚儀の相談の為に顔合わせをすることになった。
番の真竜とは、幼竜の時に幾度か会っている。丸い目が綺羅綺羅していて、とても愛らしい白竜だった。この子が将来自分のお嫁さんになるんだと、胸が高鳴ったことを思い出す。
どんな美人になっているんだろう。
だが相談の場に現れたのは、冷たい灰銀の目した、自分よりも体格の良い雄竜で……。
──あ、これ、俺が……抱かれる方だ。
──あんな体格いいやつのあれ、挿入したら絶対壊れる!
──ごめんみんな、俺逃げる!
逃げる銀狐の行く末は……。
そして逃げる銀狐に竜は……。
白竜×銀狐の和風系異世界ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる