123 / 303
123
しおりを挟むここ数日でそれが空腹の意思表示だと理解はしたが、それ以外はまだまだ良くわからないことばかりだ。
はるひはヒロの泣き声だけで判断しているそうだが……俺がその境地に到達するまで、ヒロは赤ん坊でいてくれるだろうか?
「さぁ、ヒロ様がこれ以上ごねられない内に」
そう言ってスティオンは医局の扉から俺達を押し出し、笑顔で手を振った。
見るたびにきらりと光る星を模されたオブジェの中央にはめ込まれた石が、宝石かどうか判断はつかなかったが、子供用の部屋と言うものがここまで華美なものなのかは甚だ疑問だ。
俺の部屋の隣に急遽誂えさせた部屋は内装をエルに任せてしまったためか、俺の好みでもなかったしはるひの好みでもないようだ。
薄ピンク色の耳が乳を飲むのに合わせて懸命にぴこぴこと動くのを見ながら、思わず漏れそうになった笑みを堪える。
「あっ」
「どうした?」
授乳用のソファーからこちらを見上げ、はるひが何かを言いたそうにもじもじとはにかむ。
「あの、尻尾が揺れました」
「っ 見なかったことにしてくれ」
見られたとしても行儀が悪い程度ではあるのだが、幼い頃より安易に動かさない と躾られてきた身にとっては指摘されるとなんだか気恥ずかしく、また感情を読まれたような気がして照れ臭かった。
赤くなりそうな顔を誤魔化すために隣に座り、未だ必死にはるひの乳に食らいついているヒロの頬をくすぐる。
「そう言えば、どうしてヒロなんだ?由来を聞いていなかったな」
ふと疑問に思って問うと、今度ははるひが恥じらうように目の下をぽっと赤く染めた。
「昔、兄にクラド様のことを『戦隊もの』の主人公みたいって言ったんです。そうしたら『確かにヒーローっぽいね』って返されて」
ところどころ入った向こうの言葉は良くわからなかったが、「ヒロ」と言う響きは聞き取れた。いや、はるひ達の言葉は俺達の言葉よりももう少しゆったりしているから「ヒーロー」の発音が正しいのか?
ふふふ と懐かしそうに笑うはるひの胸元に目を遣ると、乳を飲みながら眠ってしまったのかヒロが健やかな寝息を立てている。
「そこから、ヒロと付けました、クラド様のようになって欲しかったから」
照れくさそうに言ってはくれるが、言葉足らずでさんざん泣かせた俺のようになって欲しいと言うのは、いささか気にかかるところだ。
可能な限り素直に、そして誤解を招くような言動をしない子に育って欲しいと思う。
「クラド様?」
「言語教育だけはしっかりとさせるようにしよう」
俺の言葉に、一瞬きょとんとしたはるひだったが何を言いたいのか理解した瞬間にふふ と吹き出し、うっすらと滲んだ涙を指先で拭う。
「そうですね」
笑われて、けれどそれが心地よくてはるひの肩に手をまわした。
ふわふわとした髪と、自分より僅かに低く感じる体温は、護って温めてやらなければと思わせる。
小さな温もりと共に憩う心地よさに、俺の尾がぱたりと動いたのを感じた。
END.
35
お気に入りに追加
491
あなたにおすすめの小説

【完結】元騎士は相棒の元剣闘士となんでも屋さん営業中
きよひ
BL
ここはドラゴンや魔獣が住み、冒険者や魔術師が職業として存在する世界。
カズユキはある国のある領のある街で「なんでも屋」を営んでいた。
家庭教師に家業の手伝い、貴族の護衛に魔獣退治もなんでもござれ。
そんなある日、相棒のコウが気絶したオッドアイの少年、ミナトを連れて帰ってくる。
この話は、お互い想い合いながらも10年間硬直状態だったふたりが、純真な少年との関わりや事件によって動き出す物語。
※コウ(黒髪長髪/褐色肌/青目/超高身長/無口美形)×カズユキ(金髪短髪/色白/赤目/高身長/美形)←ミナト(赤髪ベリーショート/金と黒のオッドアイ/細身で元気な15歳)
※受けのカズユキは性に奔放な設定のため、攻めのコウ以外との体の関係を仄めかす表現があります。
※同性婚が認められている世界観です。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

【後日談完結】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~
ばいむ
ファンタジー
剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。
高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。
特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長していった。
冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、そして・・・。
初投稿というか、初作品というか、まともな初執筆品です。
今までこういうものをまともに書いたこともなかったのでいろいろと変なところがあるかもしれませんがご了承ください。
誤字脱字等あれば連絡をお願いします。
感想やレビューをいただけるととてもうれしいです。書くときの参考にさせていただきます。
おもしろかっただけでも励みになります。
2021/6/27 無事に完結しました。
2021/9/10 後日談の追加開始
2022/2/18 後日談完結

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

【本編完結】異世界で政略結婚したオレ?!
カヨワイさつき
BL
美少女の中身は32歳の元オトコ。
魔法と剣、そして魔物がいる世界で
年の差12歳の政略結婚?!
ある日突然目を覚ましたら前世の記憶が……。
冷酷非道と噂される王子との婚約、そして結婚。
人形のような美少女?になったオレの物語。
オレは何のために生まれたのだろうか?
もう一人のとある人物は……。
2022年3月9日の夕方、本編完結
番外編追加完結。

聖獣王~アダムは甘い果実~
南方まいこ
BL
日々、慎ましく過ごすアダムの元に、神殿から助祭としての資格が送られてきた。神殿で登録を得た後、自分の町へ帰る際、乗り込んだ馬車が大規模の竜巻に巻き込まれ、アダムは越えてはいけない国境を越えてしまう。
アダムが目覚めると、そこはディガ王国と呼ばれる獣人が暮らす国だった。竜巻により上空から落ちて来たアダムは、ディガ王国を脅かす存在だと言われ処刑対象になるが、右手の刻印が聖天を示す文様だと気が付いた兵士が、この方は聖天様だと言い、聖獣王への貢ぎ物として捧げられる事になった。
竜巻に遭遇し偶然ここへ投げ出されたと、何度説明しても取り合ってもらえず。自分の家に帰りたいアダムは逃げ出そうとする。
※私の小説で「大人向け」のタグが表示されている場合、性描写が所々に散りばめられているということになります。タグのついてない小説は、その後の二人まで性描写はありません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる