狼騎士は異世界の男巫女(のおまけ)を追跡中!

Kokonuca.

文字の大きさ
上 下
121 / 303

121

しおりを挟む



「そりゃ、これの存在を貴族が知らないはずですね?花摘みの仕事に従事するような生活の者には石鹸が手に入らず、石鹸が手に入るような身分の人間にはこの作業中に出る汁の存在なんて知る由もない。この赤の秘密を知っているのはテリオドス辺境伯家のみってわけですね」

 ヒロに湯をかける手を一瞬だけ止めて、はるひはこくりと頷く。

「同じ毛色の狐獣人の多いテリオドス領で、支配階級の者を特別視をさせるために赤い毛皮を纏ったのが始まりだそうです」

 背中から湯をかけるとヒロを覆っていた泡が流されて……

「クラド様」

 名を呼ばれて覚悟を決めてタオルを広げる。

「二、三日はまだラフィオの色が残りますので……」

 湯船から引き上げられて俺の広げるタオルの中に収まるヒロを見下ろして、あの後はるひが決意を以って話した言葉をもう一度噛み締めるように心の中で繰り返した。




「  ────ヒロは、クラド様の子なんです」

 俺を慮っての言葉かと一瞬耳を疑ったが、兄もエルも別段驚いた風はなくて……
 かすがだけが複雑そうな顔をしていたが、それでも驚くと言った雰囲気ではない。

 ぽかんとした俺に、はるひは「すみません……」と消え入りそうな言葉をかけてくる。

「いやっでもっ……」

 さすがの俺でも計算ぐらいはできるのだから、そのはるひの言葉には首を振り返すしかない。
 そんな見え見えの言葉で誤魔化さなくとも、ヒロは俺の長子として育てる覚悟はできているのだから、今更無意味な嘘を重ねて欲しくはなかった。

「二月半で産まれるはずの子が、まだこんな小さいわけないだろう?」

 それとも、子供相手のように、畑から収穫してきたとでも言うつもりだろうか?

「クラドは何を言っているの?人の子が二か月ちょっとで生まれるわけないでしょ!」

 俺が疑いの眼差しをしたからか、かすがはひどく怒っている風で、不機嫌そうに俺を睨みつけてそう威嚇めいた声で言う。

「十月十日!」
「は?」
「それで、ヒロは生後三か月」

 ぐっと言葉が詰まる。

 かすがの言葉がよく理解できず、はるひを見下ろしてとりあえず問いかけてみた。

「そんな長い間、腹に子がいて平気なのか?」
「あっ ぇ、  えぇ⁉︎」

 吃驚した顔がコクコクと頷き……それを見てやっと、はるひの言葉が胸に落ちてきた。

 小さな三角の耳も猫じゃらしのような尾も、狐獣人のそれだと思っていたが……

「馬鹿者が!他に問うことがあるだろうに!」

 兄に怒鳴られても、俺の頭の中はこんがらがって何から整理をつけていいのかわからないほどに混乱したままだった。

 名前の由来は?
 三か月なのにまだ歩き出さないのか?

 いや、違うな……

 どうして赤毛なんだ?

 いや、

「だから一年前、城を出たのか?」
「ヒロがいたら……クラド様は責任を取ろうとすると思った ので」
「責任も何も、俺の子だろう⁉」

 抱き締める力が強すぎたのか、はるひもヒロもむずがるように体を動かし始める。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】元騎士は相棒の元剣闘士となんでも屋さん営業中

きよひ
BL
 ここはドラゴンや魔獣が住み、冒険者や魔術師が職業として存在する世界。  カズユキはある国のある領のある街で「なんでも屋」を営んでいた。  家庭教師に家業の手伝い、貴族の護衛に魔獣退治もなんでもござれ。  そんなある日、相棒のコウが気絶したオッドアイの少年、ミナトを連れて帰ってくる。  この話は、お互い想い合いながらも10年間硬直状態だったふたりが、純真な少年との関わりや事件によって動き出す物語。 ※コウ(黒髪長髪/褐色肌/青目/超高身長/無口美形)×カズユキ(金髪短髪/色白/赤目/高身長/美形)←ミナト(赤髪ベリーショート/金と黒のオッドアイ/細身で元気な15歳) ※受けのカズユキは性に奔放な設定のため、攻めのコウ以外との体の関係を仄めかす表現があります。 ※同性婚が認められている世界観です。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

【後日談完結】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

ばいむ
ファンタジー
剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。 高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。 特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長していった。 冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、そして・・・。 初投稿というか、初作品というか、まともな初執筆品です。 今までこういうものをまともに書いたこともなかったのでいろいろと変なところがあるかもしれませんがご了承ください。 誤字脱字等あれば連絡をお願いします。 感想やレビューをいただけるととてもうれしいです。書くときの参考にさせていただきます。 おもしろかっただけでも励みになります。 2021/6/27 無事に完結しました。 2021/9/10 後日談の追加開始 2022/2/18 後日談完結

【本編完結】異世界で政略結婚したオレ?!

カヨワイさつき
BL
美少女の中身は32歳の元オトコ。 魔法と剣、そして魔物がいる世界で 年の差12歳の政略結婚?! ある日突然目を覚ましたら前世の記憶が……。 冷酷非道と噂される王子との婚約、そして結婚。 人形のような美少女?になったオレの物語。 オレは何のために生まれたのだろうか? もう一人のとある人物は……。 2022年3月9日の夕方、本編完結 番外編追加完結。

聖獣王~アダムは甘い果実~

南方まいこ
BL
 日々、慎ましく過ごすアダムの元に、神殿から助祭としての資格が送られてきた。神殿で登録を得た後、自分の町へ帰る際、乗り込んだ馬車が大規模の竜巻に巻き込まれ、アダムは越えてはいけない国境を越えてしまう。  アダムが目覚めると、そこはディガ王国と呼ばれる獣人が暮らす国だった。竜巻により上空から落ちて来たアダムは、ディガ王国を脅かす存在だと言われ処刑対象になるが、右手の刻印が聖天を示す文様だと気が付いた兵士が、この方は聖天様だと言い、聖獣王への貢ぎ物として捧げられる事になった。  竜巻に遭遇し偶然ここへ投げ出されたと、何度説明しても取り合ってもらえず。自分の家に帰りたいアダムは逃げ出そうとする。 ※私の小説で「大人向け」のタグが表示されている場合、性描写が所々に散りばめられているということになります。タグのついてない小説は、その後の二人まで性描写はありません

藤枝蕗は逃げている

木村木下
BL
七歳の誕生日を目前に控えたある日、蕗は異世界へ迷い込んでしまった。十五まで生き延びたものの、育ててくれた貴族の家が襲撃され、一人息子である赤ん坊を抱えて逃げることに。なんとか子供を守りつつ王都で暮らしていた。が、守った主人、ローランは年を経るごとに美しくなり、十六で成人を迎えるころには春の女神もかくやという美しさに育ってしまった。しかも、王家から「末姫さまの忘れ形見」と迎えまで来る。 美形王子ローラン×育て親異世界人蕗 ムーンライトノベルズ様でも投稿しています

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

処理中です...