117 / 303
117
しおりを挟む「お前はまだそんな馬鹿なことを言っているのか!」
王の怒鳴り声にもぴくりとも反応せず、腕の中に視線を落としたままゆるりと首を振り、「それがはるひにもヒロにもいいことなんです」と先程と変わらない口調で告げた。
「はるひ、テリオドス領へ行くなら『西』はおかしいですよね?」
「…………っ」
どうしてそれを の言葉が出る前に、エルが目の前の大理石のテーブルに一枚の便箋を置いた。
幾度も書き直して、失敗した分は読まれないようにと細かく千切って捨てたはずだった。それを晒されてしまい、もうすべてがばれているのだと観念した瞬間、堪えていた涙がぽろ と頬を伝って落ちる。
「 っ、ご、め ごめんなさ 」
「泣かなくていいから、僕は怒ってないんだ、クラドだってそうだし、クルオスだってそうなんだ。だから、解決に僕達の力を貸せないかって思ってくれているんだよ?」
「言え 言えな っ」
二人の幸せを願っているはずなのに、いざ自分の口からそのことを言おうとすると嗚咽が邪魔をした。
繰り返し首を振るオレを困ったように見つめると、かすが兄さんは王に向かって顎をしゃくってみせる。
「王を顎で使わないでくださいって常々言っているでしょう!」
その合図に先に気づいたエルが怒りを隠そうともしない声音で言うと、王を制止して執務机の方へ回り込んで何かを手に取り戻ってくる。
それは小さな、指の先程の……
「 ────っ 」
「はるひ、推測の部分もまだありますが、もうすべてばれてしまっていると思ってもらってかまいません」
以前、スティオンが胸の谷間から取り出したあの小瓶が、室内灯の明かりを受けて鈍くも美しい黄色い光を反射する。
それはラフィオの花から染料を取る際に出る黄色い液体で……
「 い、え ない 」
ぶるりと震えに体が震えると、隣に座っていたかすが兄さんがさっと体を抱き締めてくれて、温かい腕で包んでくれる。
けれど、そうされるとなおさら言葉に詰まるようで……
「 っ」
でも、もうオレに逃げ場はなかった。
「……幸せに、なって欲しかったから」
「うん?」
「兄さんと、クラド様の、……邪魔に、なりたくなかったから」
そう告げてしまうと、ぼろぼろと堪え切れない涙が溢れて……
「 ふ、二人の、 仲を、邪魔して ごめんなさ ごめんない 婚姻許可は、オレからも、破棄していただくよう、 おねが っ」
自分を抱き締めてくれる腕にしがみつくのはお門違いだとはわかっていても、他に縋れるものを見つけることができなくて、背中に回している手にぎゅっと力を込める。
「 かすがと、クラドの、仲……」
低い声は一瞬クラドの声に似ていたせいかはっと顔を上げた。
唸り声と、どう言うことかと言葉以外で問いかける雰囲気に飲まれたのか、クラドはヒロを庇うようにして緩く首を振るだけだ。
24
お気に入りに追加
491
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】元騎士は相棒の元剣闘士となんでも屋さん営業中
きよひ
BL
ここはドラゴンや魔獣が住み、冒険者や魔術師が職業として存在する世界。
カズユキはある国のある領のある街で「なんでも屋」を営んでいた。
家庭教師に家業の手伝い、貴族の護衛に魔獣退治もなんでもござれ。
そんなある日、相棒のコウが気絶したオッドアイの少年、ミナトを連れて帰ってくる。
この話は、お互い想い合いながらも10年間硬直状態だったふたりが、純真な少年との関わりや事件によって動き出す物語。
※コウ(黒髪長髪/褐色肌/青目/超高身長/無口美形)×カズユキ(金髪短髪/色白/赤目/高身長/美形)←ミナト(赤髪ベリーショート/金と黒のオッドアイ/細身で元気な15歳)
※受けのカズユキは性に奔放な設定のため、攻めのコウ以外との体の関係を仄めかす表現があります。
※同性婚が認められている世界観です。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

転生したらオメガだったんだけど!?
灰路 ゆうひ
BL
異世界転生って、ちょっとあこがれるよね~、なんて思ってたら、俺、転生しちゃったみたい。
しかも、小学校のころの自分に若返っただけかな~って思ってたら、オメガやベータやアルファっていう性別がある世界に転生したらしく、しかも俺は、オメガっていう希少種の性別に生まれたみたいで、は?俺がママになれるってどういうこと?しかも、親友の雅孝をはじめ、俺を見る目がなんだか妙な感じなんですけど。どうなってるの?
※本作はオメガバースの設定をお借りして制作しております。一部独自の解釈やアレンジが入ってしまう可能性があります。ご自衛下さいませ。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる
ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
※Rシーンには♡マークをつけます。

藤枝蕗は逃げている
木村木下
BL
七歳の誕生日を目前に控えたある日、蕗は異世界へ迷い込んでしまった。十五まで生き延びたものの、育ててくれた貴族の家が襲撃され、一人息子である赤ん坊を抱えて逃げることに。なんとか子供を守りつつ王都で暮らしていた。が、守った主人、ローランは年を経るごとに美しくなり、十六で成人を迎えるころには春の女神もかくやという美しさに育ってしまった。しかも、王家から「末姫さまの忘れ形見」と迎えまで来る。
美形王子ローラン×育て親異世界人蕗
ムーンライトノベルズ様でも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる