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しおりを挟むだけど、それにはオレがいたら駄目だから……ここから出て行くためには、オレは何を言われても耐えられる。
西方に行くために用意された荷物は、投げつけられために辺りに散らかってしまって、とっさにベレラ伯爵を見上げると、加虐の光を昏い目の奥に光らせているのが見えた。
もともと貴族として育っていないオレにしてみたら、こんなことで……と思うのだけれど、普通貴族が膝を折って物を拾い集めるなんてことはないから、ベレラ伯爵から見れば大いに笑いの種になる姿らしい。
頭の上を過ぎて行くような罵詈雑言も、聞こうとしなければなんてことはない。けなすことでしか鬱憤を晴らせず、巫女に直接害を与える勇気もない人に何を言われても平気だった。
でも、
かすが兄さんが、異世界で苦労しながら頑張っている姿を見ていたから、
クラドが、傷だらけになり、命をかけながらも瘴気や魔物に向かって行くのを知っているから、
それを悪しざまに罵られるのはどうしても我慢ができなかった。
「 ──── 大好きな人を馬鹿にしないで っ」
殴られる痛みは思ったよりも酷くはなくて、ただ熱くて、振り上げられる手を見た瞬間にヒロを守らなきゃって、それだけで腕に力を込めた。
風を切る音と、
それから低い唸り声と……
振り被られた剣が遠くの城の明かりを反射してギラリと獣の牙のように光り、見開いたオレの目と、何もわからずにぽかんと口を開けたベレラ伯爵の顔を映す。
「 ────っ‼︎」
なんの躊躇もなく振り下ろされる刃に体が動かなかった。
鼓膜をつんざくようにして鳴り響く割れるような金属の摩擦音に、とっさにヒロを庇うようにして地面に伏せた。
し ん と静まり返った空気の中で、低く唸る威嚇の音が聞こえて来たことに、ほっと安堵の息が漏れる。
「 …………どう して、邪魔をっするんですか……兄上!」
ぐっと力を込めるごとに言葉が切れる。
クラドが力で刃を押し込もうとした先に立つ黒い背中を見ると、その手が持つ大剣が寸でのところでクラドの剣を止めていた。
いつもゆったりと流れるような動きをしている長い尾が、先だけが忙しなく動いて緊張を伝えてくる。
「 っ、言質を取るまでは我慢しろと言ったはずだが?」
「もう聞いた!一年前にも、こうしてはるひと会っていたと!」
硬い金属同士がぶつかり合い、へつり合うきぃきぃと軋む音は耳ざわりで、恐怖よりも不安感を掻き立てる。
「引け!」
「退け!」
怒鳴り合いは短く、お互いに一歩も引く気配はない。
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