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しおりを挟む一年、会わずにいたのだからはるひが以前のままだとどうして言える?
その一年ではるひは想う相手を見つけ、親になり、世間に揉まれた。
俺の知らない間に……
「 ────」
「 っ」
「 ────」
ひくりと耳が動く。
下生えの草や落ち葉を踏む音は騎士のように訓練された者の足音ではない。
────それが、二つ。
「 ────お前がのうのうと戻って来たと聞いた時は腸が煮え返るかと思ったが……こうやって私に連絡を取ってくると言うことは自分の立場をまだ覚えていたようだな?」
「…………」
「返事くらいしたらどうなんだ?これだから異界渡りは」
「……そこ、は、関係ありません」
「ああ⁉なんだと⁉」
「それより、お願いした物をください。いなくなったことがばれる前に少しでも距離を稼ぎたいんです」
この距離でもはっきりとわかる舌打ちの音と、何かを投げつける音、それから小さなはるひの悲鳴が聞こえて、思わず腰の長剣に手がかかる。
「どこまでも図々しい、施しを貰う立場で」
「 っ」
「街の浮浪者の方がまだ礼儀をわきまえているんじゃないのか?ほら、這いつくばって拾い集めろ、そんな物でもないと生きて行けん脆弱な生き物が! 礼儀はどうした!あの異界渡りはそんなことも教えなかったのか⁉」
「 っ あ、あり がとう……ございます 」
「さんざん巫女の邪魔をした挙句、どの胤かもわからん畜生を連れて帰ってくるとは恥を知らんのか?役にも立たない弟にかまけて子も産めず、ゴトゥスでのことも魔人を取り逃がしていたそうじゃないか?結局戦う力のない異界渡りは出しゃばらずに城で震えていればいいものを」
「兄さんはっ!命がけでゴトゥスに赴き浄化したんですっ!それをっ っ ぃた」
「ぎゃあぎゃあ喚くな、胤と一緒に躾はつけて貰わなかったのか⁉」
夜気を切り裂くように耳に届いた打擲の音に、柄にかかった手に力が籠った。
「 っ」
「どうした?あの間抜けな剣を振るしか能のない犬でも呼ぶのか?一年前と同じように、あの男はこんなところになんか来ないぞ?」
「一年前もっ今もっこの国から瘴気をなくそうと必死に頑張ってくれてるんです!あの人は皆を、オレを護ってくれる英雄でっ」
「うるさいっ!平民娘が手籠められて孕んだ畜生の、何が英雄だ!剣を振るしか能のないごろつきではないか!」
「あの人はオレのヒーローなんですっ!オレのっ大事な っ大好きな人を馬鹿にしないで っ」
再び高らかに上がった殴打の音に、一瞬で目の前が怒りで真っ赤に染まり、今度こそ全身のバネを使って茂みから飛び出した。
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