狼騎士は異世界の男巫女(のおまけ)を追跡中!

Kokonuca.

文字の大きさ
上 下
111 / 303

111

しおりを挟む



「クラド様、ヒロのこと、本当にありがとうございました」

 小さな手を持ち、バイバイと俺に向かって振って見せるので、それに倣って小さく手を振る。

 嬉しそうにはにかむはるひに見送られながら扉を出て数歩、後ろを振り返ってはるひの言葉に自然と眉間に皺が寄るのを感じた。





 そうであって欲しくない と願いながら木の陰で息を潜める。
 そうしながらもそこに現れるだろう人物を思い描いてしまうと、息苦しさに今すぐ逃げ出したい気分だった。

 細かく破られたものを修復した便箋、それに書かれた文章が何かの見間違いか、あるいは筆跡を真似た悪質ないたずらではないかと思いもしたが、兄がそんな不確定な物を渡してくるとは思えなかった。


 ──── 西方に行く手引きをお願いします


 千切れた紙に書かれた文章は腹立たしいほど簡潔だった。

「…………どう言うことなんだ」

 はるひがそれを考えているのだとしたら、はるひはどうして逃げるのだろうか?

 城から消えたことも、
 宿から逃げたことも、

 そして今、再び逃げようとしていることも……

 すべてが繋がりそうで繋がらず、焦れるような焦燥感だけが降り積もって行く。

 俺に対して好意はなく、あの赤狐の元へと行きたいがために宿を抜け出したのではないのか?
 しかし、それなら昼間、共に行きたいと言えばいいだけだ。

 細かく破かれたあの手紙には、西へ行きたいとしたためられていた。

 西と言えば人族のいる国がありはするが、小国がひしめき合い且つ巫女の召喚もできないような国も多いせいか混乱と争いの絶えない地域でもある。

 そんな場所に、どうして?

 乳飲み子を抱えて行くには危険極まりない旅になるだろう、それをあえて選ぶ理由がわからない。
 あちらの地域では犯罪奴隷だけでなく、普通に奴隷として人々が売買されている。そんな場所ではるひのような者がたった一人で歩き回ったら?

 結果なんて考えなくともわかる。

「はるひ……何を考えているんだ……」

 自然と漏れてしまった言葉に慌てて口を押えて辺りの気配を窺う。そうしていると、ふと考えたくない事実に行きついた。


 ロカシ・テリオドスと共に西方へ駆け落ちようと考えているのではないか?


 自分を受け入れなかったテガ・テリオドスのいる東方へ逃げたところで、追い返され結局は城に連れ戻されると踏んでロカシ・テリオドスと共に西へと逃げる算段なのか……?

 ……だから、今日、なのか?

 ロカシ・テリオドスはまだ王都にいるだろう、奴とのことを諦めたように俺に告げたのはただ俺の油断を誘うためだけだったのか?

「いや……はるひはそんなことをする奴じゃない……」

 暗い茂みに蹲っていると自分の言葉が不安に思えてくる。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】元騎士は相棒の元剣闘士となんでも屋さん営業中

きよひ
BL
 ここはドラゴンや魔獣が住み、冒険者や魔術師が職業として存在する世界。  カズユキはある国のある領のある街で「なんでも屋」を営んでいた。  家庭教師に家業の手伝い、貴族の護衛に魔獣退治もなんでもござれ。  そんなある日、相棒のコウが気絶したオッドアイの少年、ミナトを連れて帰ってくる。  この話は、お互い想い合いながらも10年間硬直状態だったふたりが、純真な少年との関わりや事件によって動き出す物語。 ※コウ(黒髪長髪/褐色肌/青目/超高身長/無口美形)×カズユキ(金髪短髪/色白/赤目/高身長/美形)←ミナト(赤髪ベリーショート/金と黒のオッドアイ/細身で元気な15歳) ※受けのカズユキは性に奔放な設定のため、攻めのコウ以外との体の関係を仄めかす表現があります。 ※同性婚が認められている世界観です。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

【後日談完結】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

ばいむ
ファンタジー
剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。 高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。 特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長していった。 冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、そして・・・。 初投稿というか、初作品というか、まともな初執筆品です。 今までこういうものをまともに書いたこともなかったのでいろいろと変なところがあるかもしれませんがご了承ください。 誤字脱字等あれば連絡をお願いします。 感想やレビューをいただけるととてもうれしいです。書くときの参考にさせていただきます。 おもしろかっただけでも励みになります。 2021/6/27 無事に完結しました。 2021/9/10 後日談の追加開始 2022/2/18 後日談完結

【本編完結】異世界で政略結婚したオレ?!

カヨワイさつき
BL
美少女の中身は32歳の元オトコ。 魔法と剣、そして魔物がいる世界で 年の差12歳の政略結婚?! ある日突然目を覚ましたら前世の記憶が……。 冷酷非道と噂される王子との婚約、そして結婚。 人形のような美少女?になったオレの物語。 オレは何のために生まれたのだろうか? もう一人のとある人物は……。 2022年3月9日の夕方、本編完結 番外編追加完結。

聖獣王~アダムは甘い果実~

南方まいこ
BL
 日々、慎ましく過ごすアダムの元に、神殿から助祭としての資格が送られてきた。神殿で登録を得た後、自分の町へ帰る際、乗り込んだ馬車が大規模の竜巻に巻き込まれ、アダムは越えてはいけない国境を越えてしまう。  アダムが目覚めると、そこはディガ王国と呼ばれる獣人が暮らす国だった。竜巻により上空から落ちて来たアダムは、ディガ王国を脅かす存在だと言われ処刑対象になるが、右手の刻印が聖天を示す文様だと気が付いた兵士が、この方は聖天様だと言い、聖獣王への貢ぎ物として捧げられる事になった。  竜巻に遭遇し偶然ここへ投げ出されたと、何度説明しても取り合ってもらえず。自分の家に帰りたいアダムは逃げ出そうとする。 ※私の小説で「大人向け」のタグが表示されている場合、性描写が所々に散りばめられているということになります。タグのついてない小説は、その後の二人まで性描写はありません

藤枝蕗は逃げている

木村木下
BL
七歳の誕生日を目前に控えたある日、蕗は異世界へ迷い込んでしまった。十五まで生き延びたものの、育ててくれた貴族の家が襲撃され、一人息子である赤ん坊を抱えて逃げることに。なんとか子供を守りつつ王都で暮らしていた。が、守った主人、ローランは年を経るごとに美しくなり、十六で成人を迎えるころには春の女神もかくやという美しさに育ってしまった。しかも、王家から「末姫さまの忘れ形見」と迎えまで来る。 美形王子ローラン×育て親異世界人蕗 ムーンライトノベルズ様でも投稿しています

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

処理中です...