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しおりを挟むはるひの体も元の調子に戻り、俺の役目も終わりだとスティオンに告げられてしまった。
そうなってしまえば俺がヒロの世話を焼く理由は無くなってしまい……今日、はるひのところに連れて行けばもうこうして散歩をすることもなくなる。
時間は十分に潰した、面会は終わってはるひも部屋に戻っている頃だろう。
「 ────クラド様が 」
ひくり と自分の名前を拾って耳が動くのがわかった。
自然と音をよく拾うようにとぴくぴくと耳周りの筋肉が動き、その潜めているようでまったく潜められていない侍女達の黄色い声を届けてくる。
「 かすが様と、クラド様が 」
「 毎日この廊下を寄り添って歩かれてて 」
「 えぇ?」
「親密そうに 一緒の部屋に 」
仮にも王宮の侍女なのだから、そう言った噂話はむやみやたらとしないようにと教育されているはずなのだが、若い侍女にその教育はあって無いようなものだのだろう。
ヒロの体調の確認と沐浴のために使っている医局から共にはるひの部屋まで、出発地と目的地が一緒なのだから行程が同じになるのはおかしくはないはずなのに、次第に大きくなるその侍女達の口ぶりだけを聞いていると、かすがと共に王宮を散策した後に二人きりで部屋に籠った と言っているように聞こえる。
別段、寄り添った記憶もなければ、親密なほど距離を詰めたこともない。
義理の兄と義理の弟なのだから、赤の他人よりは確かに親しくはあるだろうが、侍女達が話の端々に込めるような感情は一切ない。
ふぅ と溜め息を吐いて壁に凭れる。
侍女達の噂話は実に厄介だ、咎めても無視してもまことしやかな話として広まってしまう。
噂の中の人間がどうこう言うよりはエルを通して侍女長に注意して貰うのが確実だ、俺の口よりも相手の口の方がはるかに回るのだから。
ぐるりと廊下を遠回りしている内にヒロの目が覚めたらしく、はるひの部屋に着く頃にはもぞもぞとスリングの中で暴れ始めていた。
「 はるひ、入るぞ」
ノックから入るまでの時間が短い とエルに良く怒られるが、どうにも身に着いた癖なのかついさっと開けてしまう。案の定はるひは驚いた顔をしていたが、俺の胸元がごそごそと動くのを見て顔を輝かせた。
毎日毎日、ここを訪れるとその笑顔で出迎えてはくれるが、その笑顔は俺ではなくヒロに向けられたもので……
勘違いをしないようにするのは一苦労だった。
「今日は……かすが兄さんは?」
俺が扉を閉めてしまったことに少し驚いた顔をして見せ、首を傾げてくる。
なるほど……侍女達が噂するぐらいだ、はるひも同じように一緒に行動しているとでも思ったに違いない。
「いや、医局に残った。別段、示し合わせて来ているわけでもないしな、用事を終わらせたら来るだろう。急用なら呼びに行かせるが?」
そう返すと少し訝しむような顔をしてから、小さく笑みを作る。
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