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「個人差です」
「いや、しかし、何かあったら……」
「成長なんて人それぞれです」
「だが本に書いてあったのは……」
「いいお父さんっぷりですねぇ」

 揶揄うように言われた言葉に……はっと息を飲んだのがバレてしまったようだった。

 スティオンは流石に悪いと思ったの口を押えているし、かすがは聞かないふりを決め込んでいる。

「…………俺じゃない」

 そう言うと直向きに俺を見詰めてくれているヒロを裏切るような気がして、気が重く塞ぐような錯覚がする。

 なれるものならなりたいが、残念ながら俺にその資格はないのが現実だ、俺にできることと言ったらはるひが回復するまでの間、乳母代わりに世話を焼くぐらいで……

「部屋に戻る」
「わかりました、空気調整されてるとは言え、湯冷めにご注意くださいな」
「ああ」

 俺と共に退出しようとしたかすがを呼び止めスティオンが何事かを告げると、かすがは浮かない表情を作ってこくりと頷き、自分はここに残るから と言い出した。
 ここ数日、ヒロの沐浴に付き合った後は共にはるひの部屋へ行くのが習慣だっただけに、一緒に来ないことを知らされると肩透かしを食らったようななんとも物悲しい感じを受けるが仕方がない。

 もっとも、今日ははるひは部屋にいないのだから共に医局を出る意味はないのだが……

「   今頃は、何の話をしているんだろうな」

 自分でその席を設けたというのに、今この瞬間にロカシ・テリオドスと会っているのだろうと思うと、胸の奥が焦れるように痛む。
 けれど口に出した約束を反故にすることはできなかった。

 「会える」 と嬉しそうに笑って礼を言うはるひは、確かに幸せそうだったのだから……

 出来ることならばその場に立ち会い、話の内容すべてを知りたかったが、醜い顔で睨みつける俺を見てはるひがどう思うか考えるとそれもできなかった。

 幼い頃より騎士であった母の背を見て育ち、強くあろうとしてきたのだが現実はできないことばかりで……

「ああ……だが、お前の世話をできるようになったな」

 そうスリングの中に問いかけたところで返事が返ってくるわけではないのだが、時折絶妙な間合いで返事とも言えない「あー」と言う声を出すから、なんとなく話しかけるのが癖になってしまっているようだった。

 スリングの中の温もり頬ずりしたい気持ちで廊下を行くと、向こうから尾を大きく振り回している兄が歩いてくるのが見える。

 他の貴族に見られたら眉を顰められるのでは と思うほどで、今にもぱしんと音が鳴りそうだ。

「太陽のごとき陛下に   」
「お前は馬鹿だ!」

 挨拶をしようとしたのを遮られ、あまつさえ馬鹿呼ばわりされてさすがに俺もむっと眉を顰めた。


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