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 鼻を摺り寄せて、リズムをつけてその背中を優しく叩く。

 歪な形の便箋を見下ろしながら、この優しく甘い匂いとも離れなければならないのかと思うと、はるひの幸せを祈る時のようにチクチクと胸が痛み始めた。



 かすがが甥を見詰める瞳には愛情が籠っていて、憎く思っているわけではなさそうだった。
 それでも時折複雑そうな表情を浮かべるのは、兄と婚姻関係を結んで十二年の歳月が過ぎたのに未だに一人も御子を授かっていないせいなのかもしれない。

 瘴気と魔物のことが一段落するまでは子供は産まない と宣言されてはいたが、巫女を信奉する貴族や逆にかすがを快く思わない貴族にそれぞれの理由でそれぞれにせっつかれているとエルが言っていたので、そのことに対する苦悩がどれほどのものかは安易に俺が推察できるようなものではないだろう。

 兄は兄でかすがが嫡子を産むまでは側室はいらない と突っぱねているせいか、この話題は非常にデリケートな問題だった。

 なまじ先王があちこちに手を出して、俺を含め落とし胤を多く産ませたせいか、王家との繋がりを強固にしたい貴族連中は適齢期の娘を抱えて特にやきもきしていると聞く。


「すっかり風呂に入れるのも手慣れてしまって……」

 湯冷めしないように短時間でさっと水気を拭き、おむつや服を身に着けさせる姿を見てかすがはそう感嘆の声をかけてくる。

「毎日していますので」
「最初の頃のぎこちない手つきが懐かしいですよね?」

 そうスティオンは言うと馴れ馴れしく俺に凭れかかってくる。だからそれを邪険に押し退けるとそのはずみでたゆんと重そうなものが揺れた。

「本日の健康診断ですが、母子ともに問題なく。はるひ様はもう暫く体力の回復を待ち、部屋の散歩や廊下の散歩から始めると言うことでいかがでしょうか?」
「そうか。ところで、問題がないとは本当なのか?」

 俺の言葉にスティオンは傷ついた表情を作ったが、それが作り物であることは熟知している。

「何か気になることが?」
「首の座りが遅くはないか?まだぐらぐらしているし、這おうともしていない。体が弱いんじゃ……」
「育児書読んだんです?」
「もちろんだ」

 身を以って経験するに越したことはないが、先人の知恵の詰まった書物を読み漁ることは大いに有意義だ。

 幾つか取り寄せてヒロが眠っている間に読んでみたが、ヒロの成長と照らし合わせるとどうにも成長が遅いように思えて仕方がない。四角四面に本に書かれたことを鵜呑みにするのは危険だとは思うが、目安にはなるのでそれを思うと心配する心が首を擡げてくる。


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