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「どこまでお人よしなんだ!そんな他の胤の子など放っておけばいいだろう!お前はこの俺の弟で、王族で、ゴトゥスでの英雄なんだぞ!それをここまで虚仮にされて、ましてやそんな物を俺に書かせようと言うのか!」

 俺ですらピリ と肌に刺すような感覚を覚える。

 怒気は重く息苦しく、機嫌を直していたヒロが再び顔を歪め出したのが見えて兄に向って「止めてください」と声を上げた。

「王族もゴトゥスの英雄の件も手放して惜しいものではありません」
「何を……」
「兄上の弟と言うこと以外は、俺にとってはどうでもいいことなんです」

 「ぁー  」と泣き出したヒロの背中を叩いてあやしながら、申し訳ありません と頭を下げる。

「それと同じくらい、はるひとヒロが幸せだと思うのなら それで」
「馬鹿なことをっ」 
「お願いです、兄上。俺を、はるひの幸せを望んでやれないような男にさせないでください」
「お前はこれを見てもそれを言うのか!」

 投げつけられたそれに一瞬身を竦ませそうになったが、頬に当たったそれはなんの衝撃もなく、柔らかな音を立てて足元へと落ちて行く。

 紙……のようではあるが……

 ひどく凸凹していて傷んでいるようだ。

「兄上……これは?」

 兄がここまで声を荒げる何かが書かれているらしいソレを拾い上げることに、一抹の不安がよぎったせいで手を伸ばすことができずに、絨毯の上に落ちたそれを見遣る。

「はるひはなぜ出て行った?」
「は……?」

 突然の質問に戸惑いを覚えている俺を睨みつけ、兄がソファーを蹴りつけるように立ち上がる。

「何故、宿から逃げた?」

 何故?

 怯えてしがみついたのを勘違いした俺が無体を働いたからだ。

 何故?

 ロカシ・テリオドスの元に帰るためだ。

 ……何故?

 足元の紙を拾い上げると、それが一度細かくちぎられた上で再度形を整え直されたものだと言うのがわかった。
 整え直す際に使った糊の匂いと、それから……

「…………」
「何故だ?」

 一度引き裂かれた文字はひどく読みにくものではあったけれど、内容がわからないようなものではない。

「…………」
「お前が今すべきことはそんな赤子にかまけることではなかろう!」

 そんなことはない と返そうとした俺を遮り、兄は荒い足音を響かせて部屋を出て行ってしまった。

 後に残されたのは激しいヒロの泣き声だけで……

「すまないことしたな、ヒロ。兄は俺のことを慮って言ってくださっているのであって、決してお前のことが嫌いではないんだ」



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