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「でも  」
「でもなんて言わないで欲しい、はるひと番になりたいって思わなかったら、あの時領に連れ帰らなかったし家も仕事も紹介しなかった。僕の行動は全部君への打算でできてるんだらか、はるひが申し訳なく思ったり遠慮したりする必要はないんだよ!僕が勝手にしていることなんだからね?」

 テーブルの上に置かれた拳に力が込められて白く震える様子が、悔しさと切実な心の内を表してオレに教える。

「だから、もう一度、きちんと準備を整えて公式の場でお願いしてみようと思う」
「  それ、は 」

 すでにクラドとの婚姻許可の出ている今の状態では、幾ら願い出ても王が許可を出すことはないだろうし、それに……

 …………それに、オレは、

「……ロカシ、ありがとう」

 そう万感を込めた言葉を口にするのが精いっぱいだった。




 東方のテリオドス領は温暖で過ごしやすく、人々もおおらかな気質の人が多かった、それと言うのも隣国との交流が良好で他国と隣接していると言っても争いごともなく過ごせているからだ。
 それと違い西方は小国がひしめく場所もあってそれぞれの国がそれぞれに干渉し合い、小競り合いが絶えないと聞くし、聖シルル王国と違って瘴気や魔物に対抗するための異界からの使者が召喚されない場所もあると聞く。

 かすが兄さんによって平安を保たれているこことは違うんだ と、口の中で呟いてから分厚い本をそっと閉じた。

 注意をしたはずなのに、それでもその耳は音を拾ってしまったのかぴく と反応を見せて、可愛らしい三角山を震わせる。

 ヒロと同じ部屋で過ごしてもいいとスティオンから許可が出たのは今日のことで、傍らで小さな命がなんの憂いもなく眠る気配に自然と頬が緩む。

「ヒロ」

 よく眠っているのに、耳は返事をするようにぴくりと動く。

「ヒ ロ 」

 少しだけ間を伸ばして呼んでみて……柔らかい赤い髪を優しく撫でると、少しだけむずがるように体を揺すって寝返りを打つ。

「クラド様にいっぱい抱っこしてもらったね」

 剣ばかりを握って来たのがわかる無骨な手は見た目よりも柔らかく触れることを知ってはいたけれど、赤ん坊の世話ができるなんて思わせない荒々しさがある。
 今までの生活の中でも、赤ん坊の世話をするなんてことはなかっただろうに、ヒロが後追いをするくらい共に過ごしてくれたんだと思うと嬉しさに胸がぽっと温まる気がした。

 ヒロの名を優しく呼んで、慈しんでくれた姿を見ることができたから……

「…………もう、十分だよね」

 ぽつりと漏らしてしまった言葉に慌てて口を塞ぎ、辺りの様子を窺ってからヒロを抱き上げた。



  ◆  ◆  ◆



 放り投げられた哺乳瓶を床に着く寸でで掴むとほっと肩を撫で下ろす。

 腹がくちくなった際に飲み口を乱暴に吐き出すことはあったが、少し前から放り投げるようになってきていた。



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