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しおりを挟む問い返しても答えてくれなかったのだから、忘れてしまってもいい言葉だと思うのに……
「俺では?」
ずっとその言葉が耳に残って離れてはくれない。
きっと、もう一度尋ね返しても答えてくれないか、もしくは忘れられた振りをされてお終いだと思うから、答えを知ることはできないのに だ。
「────はるひ様、入りますよ」
ノックはするけれど返事は待たない。
クラドもそうだったけれどスティオンもそうだった。ノックの意味を知っているのかと問いただしたくもあるけれど、ノックはしているのだから と言う理の通らない言葉で完封されてしまいそうだ。
そして今日もやっぱりノック音とほぼ同時に入って来たスティオンが、「具合はどうですか?」とにこにことした愛嬌のある笑顔で尋ねてくる。
思案で暗くなってした表情を変えるために、ぱんぱんと頬を叩いて笑顔を作った。
「もうすっかり!ですのであの、クラド様にヒロを連れてきていただくよう進言してもらえたらと……」
連れてきて は言葉が違うかと思ったが、スティオンは軽く考え込むふりだけをして人差し指でバツを作って微笑んだ。
「まぁ、のんびりしてくださいな」
「でも、 」
クラドはあれから何事もなかったかのようにヒロが起きたらオレの元へ連れてきて遊ばせ、眠くなったら連れて帰ると言う生活を繰り返している。
厳めしい表情で、スリングにヒロを収める手際の良さは目を見張るほどだったけれど、元気になったのに子供を任せきりと言うのも落ち着かなかった。
「クラド様もお忙しいのに……」
「もともとはるひ様の護衛騎士だったんだから問題はないですよ?もっとも剣まで置いて子守に夢中になっているんだから、職務怠慢かもしれませんけどね?」
そう言ってぱちんとウインクして見せる。
茶目っ気たっぷりのその動作は冗談だと良くわかる軽口で……ベレラ伯爵の当てこすりのような感じは受けなかった。
最初こそ、あのベレラ伯爵の娘と言うことで警戒する気持ちもあったのだけれど、取り立てて何か嫌味を言われたりや見下されたりすることもなく、クラドや王と幼馴染だと言うことからさまざまな幼少期の話を面白おかしく話してくれて……
オレはすっかり気を許してしまっていた。
「 ────、そう言えば 」
首をこてん と倒すとその振動だけで胸元が大袈裟なまでに揺れるのをつい目で追いそうになるのを堪え、「なんですか?」と言葉の続きを促す。
長くて薄紅色に綺麗に手入れされた爪を持つ指が小さな四角を描くけれど、それだけでは何かわからずに今度はオレが首を傾げる番だった。
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