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しおりを挟む振り回される尾は完全に怒りを示しているし、忌々しそうに眉間に皺を寄せている表情は人を寄せ付けるものではない。
「 報告の続きを!」
ぐる と威嚇の低い唸りが聞こえるようだった。
一瞬だけエルと顔を見合わせると、小さく咳払いをして居住まいを正す。
「では、魔人の報告に入ります」
そんな頭に血が上った状態できちんと理解できるのかは甚だ疑問ではあったが、王に請われれば話すしかない。
「森の中頃、少し開けた個所に沢があり、そこに水に浸かるようにして倒れていました。発見した際は完全に顔が水の中に浸かっていましたので確認はできませんでしたが、逃げようとしたはるひを追って起き上がった際にはっきりと……」
鈍色の肌が震えて、俺の長剣がその肌に深々と突き立った瞬間を思い出して一度きつく目を閉じた。
「あれは、以前に見たことのある顔でした」
「名前はわかるか?」
「カメロ家のイネリアだったかと」
この遠征が初出陣だったカメロ男爵家の三男だったか?鹿獣人の末っ子らしい爛漫な雰囲気だったと記憶しているが……
鈍色の肌と、触手の髪、そして額の角。
そして、金色に光る瞳孔は明らかに生きた生き物の目ではなかった。
「ゴトゥス山脈で戦死しております、死体の確認はされておりません」
事務的な言葉は間違いではなかったけれど、ゴトゥスの戦場を知っている身としてはその言葉はあまりにも冷たく、他人事過ぎて苛立ちの募るものだった。
けれど、ゴトゥス山脈への戦いに出る代わりにエルはここを守り続けたのだから と言葉を飲み込む。
「では、魔人が人に入り込んだ瘴気だと言う話は正しいと言うわけだな?」
「 その可能性が高くなりました」
あくまで明言を避ける返事をし、「それから 」と言葉を続ける。
「その魔人は起き上がると明らかにはるひに向かって行こうとしました。まるで……」
言葉が途切れてしまう。
そう言えば先程も感じた違和感だったと、気付かなければよかったと思いながら往生際悪く言い方を探す。
「……まるで巫女に引き寄せられているようだった?か」
徒労に終わった思考を戻して、気まずい思いをしながら頷くしかできない。
俺が言おうとして言えず、兄が言い切った言葉の意味は安易に口にしていい言葉ではなかった。
「瘴気と魔物は巫女に祓われるが、魔人になると巫女の肉体を糧として力をつける だったな」
気まずさに視線を逸らしながら頷くと、執務椅子がギィと悲鳴のような音を立てる。
「巫女の肉片、体液、毛……か」
「けれど、魔人の目撃自体も歴史上数件、食われた巫女も一人です。もしかしたら異界からの只人を狙っている可能性もあります」
「……まぁ、異界から来たと言う時点で只人と呼んでいいのか甚だ疑問ではあるのだしな」
過去に一度、魔人が巫女を食らいこの国が滅びかけたことがあった。もう伝説と言って遜色ない時代の話ではあるが、それは事実として残り語り継がれている。
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