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しおりを挟むましてや昨日はるひが入り込んだ森はテリオドス領へかけて広がる森で、魔物の報告はおろか瘴気の報告ですら稀なところだ。
それが……
「とにかく急ぎ王宮に戻ってはるひの手当てと……アレの報告をする」
鈍色の肌を突き刺した感触が蘇ってくるようで、思わず身を震わせる。
幾度も戦った、幾度も切りつけたし倒しもした、けれどあの感触だけはいつまで経っても馴れる気がしなかった。
瘴気 は、触手の絡まったような姿をしている。
何代か前の巫女が「イトミミズ」と表現したそうだが、生憎とこの世界にその種は存在しなかったためにどう言ったものかはわからないが、非常にアレと酷似しているらしい。
そのイトミミズが生き物の体に入り込み、その体の中を食い尽くして動くモノが魔物と呼ばれ、そしてそれらを纏め、率い、導くモノが魔人と呼ばれる。
魔人は歴史上そう多く発見はされていない、それゆえに成り立ちも不明瞭だが一説には相性の良い人型の体に入り込めた瘴気が成るのでは と言われていた。
言われていた だ。
「…………不愉快だ」
思い出しただけでも反吐が出そうになって、眉間の皺を深くするしかない。
ハンネスも同様の気分なのか、俺を見て同様に苦渋の表情を浮かべている。
沢に倒れ伏す鈍色のモノのあの顔は……
「顔色が悪いですよ、ちょっとどこかでお休みになった方が……」
「いや、俺のことよりはるひが優先だ。瘴気に中てられたのだから」
瘴気から伸ばされた触手は生き物に触れるとインクのシミのような痕を残す。それ自体に痛みや痒み、出血と言った症状は見られないがその代わりに体温を吸い取り、やがて体力を消耗して衰弱するとそのシミが広まり体が崩れ落ちて行く。
巫女の聖別した薬でもあれば別だが、潤沢に出回っている物ではないし生憎と手持ちを切らしたばかりだ。
大人なのだから多少は体力もあるだろうが……
「……体力のない赤ん坊に瘴気の痕がなくて幸いだった」
赤い色は癪に障るが、それが命を脅かされようがどうだっていいと言う理由にはならない。
あの幸せだけを握り締めて産まれてきたような赤ん坊には、そのまま健やかに育って欲しいと思ってはいる。
「はい?何かおっしゃいましたか?」
「いや、何も」
それから、もう一つ気がかりがある。
────死んでいなかったようです
そう昨夜に報告を受けた時、すっと胸の内が寒くなった。
聖別された火薬で燃やし、聖別された剣で切りつけその体の大部分は失われていた、なのに死骸を入れた袋が切り裂かれ、その中身が消えていたのだと……
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