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「はるひ、大事にしたいと言っただろう?」
「んっ」
「触れるだけで許してくれ」

 頬をぺろりと舐められてあやすように抱きしめられてしまうと、自分の我儘のようでこくりと頷き返すしかできない。

 互いの間に隙間を産まないようにきつく腕を回されて、オレの焦れた胸中をわかっているようにゆっくりと手が腰を這い、その行きつく先がどこか……

 柔くノックされると応えるようにひくりとソコが攣る。

 眩暈がしそうなほど体中に血が駆け巡って、縋りつくために力を込めた腕が震えてしまって。

「安心しろ、無体なことはしない」

 慰めるようなクラドの囁きに、小さな子供のようにこくりと首を振ることしかできなかった。




 再び降り出したらしい雨の音を聞きながら気怠い体を動かそうとすると、後ろから伸びていた手が慌てるようにオレの体を抱え直し、それから首筋の匂いを嗅いでから安心したように寝息を立て始める。
 名残を留めた熱い腕に抱き締められて、一瞬このまま眠ってしまえば と思いもした。

 けれど……

 今度こそ……とそろりと腕から抜け出し、ベッドから降りようとすると「どうした?」と声がかかった。はっきりした声音ではなく、怠さと眠さの混じったそれは夢うつつからの言葉のようにも聞こえる。

「ヒロの、おむつを替えなきゃと思って……」
「おむつ……」

 呟きはしたもののそれが何か理解するのに時間を要しているような、そんな時間が過ぎてベッドの上の影がもそもそと動き出す。

「  手伝おう」
「だ、大丈夫です」
「いや、……そうすれば少しでも早く寝床に戻ってくるだろう?」

 いつものきびきびとした動きからは考えられないほどクラドの動きはゆっくりで、達したために疲れが出ているのが見て取れた。

 ベッドの縁に戻って、さっきまでしがみついていた広い肩を押し返す。

「すぐにすみますから、休んでてください。疲れているんですから、ゆっくり休まないと……」
「…………そう だな、  」

 眠気を振り切れなかったのかクラドはオレの促しのままに再び体を横たえる。けれど、その手はオレの手を掴んだままだった。
 オレの体を満遍なく撫で上げ、高みに押し上げたその手が、離れ難いとでも言いたそうに手を握り続けている。

 手を振り払うことに、罪悪感が生まれるなんて知らなかった。

「こんなに 心安らかに横になれたのは久しぶり だ  、ずっと、  探し て  」

 言葉の最後が寝息に溶ける。

 オレの手を握りながら眠ったんだと言う事実がくすぐったくて、嬉しくて溢れた涙が零れそうになって慌てて服の袖でそれを拭う。



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