47 / 303
47
しおりを挟むでなければ、オレとクラドにいきなりこんな物が出されるはずがなくって……それで仕方なく、オレを探しに来たのか。
オレが無理矢理迫ったのに、あんなことをしてしまったからクラドは好きでもないオレと、結婚しなきゃいけなくなってしまったなんて……
クラドの本当に好きな人は、かすが兄さんなのに。
立場上、どうしようもないのにかすが兄さんもクラドのことを憎からず思っているのは知っている。
二人が城の東屋で人払いをして逢引していた と言う噂を聞いた時は、本当に落ち込んだけれど逆に自分を納得させるいい機会でもあった。
巫女が嬉しそうにクラドの尾を櫛で梳いていたのだ と。
クラドが巫女の手を取り、ひざまずいて何かを誓っていた と。
ひどく二人は親密な様子だった と。
恋愛話がこの上もなく好物な侍女達は、禁断の愛だと言っては潜めなければならない声を大きくして噂をした。
そんな噂を聞いてからしばらくして、ゴトゥス山脈への遠征の巫女の護衛にクラドが参加すると知った。幼い頃からずっとオレの傍にいた護衛騎士はいつの間にか代わり、オレに一言もなく……クラドはかすが兄さんのために危険な瘴気と魔物の巣窟と言われる場所へ行ってしまって……
本来、王族の人間が出向くような場所ではないのに。
あえて危険な場所へ赴くことを愛故と侍女達は黄色い声で話し、その手柄を以って巫女の下賜を願い出るのでは と憶測をはやし立てる声や、劇の中でしか聞かないような奇想天外な兄弟で愛を奪い合うなんて妄想のような話も聞こえてきて。
あの森の日以来、気まずさと具合の悪さを理由にクラドを遠退けるようなことをしなければよかった と、そうすればせめて出陣の際に声くらいはかけて貰えたかもしれないのに……
ゴトゥス山脈での戦いが激化したと言う噂を聞いて、ずっとずっと後悔していた。
小さなタライだったけれど、お湯を使わせてもらえるだけ有難かった。
王宮では望めば幾らでも持ってきてもらえたし、元の世界のように蛇口をひねればお湯が出た。それがこの世界の一般的な生活だと思っていたけれど、テリオドス領で暮らすようになってそれがどれほど贅沢だったのかと痛感することも多い。
「あー……ぅ!」
ぱちゃんっ と水面を叩いたのは尻尾だ。
可愛らしい猫じゃらしのようなふさふさとした可愛らしい尻尾。
「ほら、じっとしてなきゃ」
そう言いながらラフィオの汁を入れて黄色くなった湯をそっと体にかけ、小さな赤い石鹸を取り出してそれで尻尾を洗う、続けて髪と耳も……
30
お気に入りに追加
491
あなたにおすすめの小説

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる
ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
※Rシーンには♡マークをつけます。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

転生したらオメガだったんだけど!?
灰路 ゆうひ
BL
異世界転生って、ちょっとあこがれるよね~、なんて思ってたら、俺、転生しちゃったみたい。
しかも、小学校のころの自分に若返っただけかな~って思ってたら、オメガやベータやアルファっていう性別がある世界に転生したらしく、しかも俺は、オメガっていう希少種の性別に生まれたみたいで、は?俺がママになれるってどういうこと?しかも、親友の雅孝をはじめ、俺を見る目がなんだか妙な感じなんですけど。どうなってるの?
※本作はオメガバースの設定をお借りして制作しております。一部独自の解釈やアレンジが入ってしまう可能性があります。ご自衛下さいませ。

オメガ転生。
桜
BL
残業三昧でヘトヘトになりながらの帰宅途中。乗り合わせたバスがまさかのトンネル内の火災事故に遭ってしまう。
そして…………
気がつけば、男児の姿に…
双子の妹は、まさかの悪役令嬢?それって一家破滅フラグだよね!
破滅回避の奮闘劇の幕開けだ!!
逃げる銀狐に追う白竜~いいなずけ竜のアレがあんなに大きいなんて聞いてません!~
結城星乃
BL
【執着年下攻め🐲×逃げる年上受け🦊】
愚者の森に住む銀狐の一族には、ある掟がある。
──群れの長となる者は必ず真竜を娶って子を成し、真竜の加護を得ること──
長となる証である紋様を持って生まれてきた皓(こう)は、成竜となった番(つがい)の真竜と、婚儀の相談の為に顔合わせをすることになった。
番の真竜とは、幼竜の時に幾度か会っている。丸い目が綺羅綺羅していて、とても愛らしい白竜だった。この子が将来自分のお嫁さんになるんだと、胸が高鳴ったことを思い出す。
どんな美人になっているんだろう。
だが相談の場に現れたのは、冷たい灰銀の目した、自分よりも体格の良い雄竜で……。
──あ、これ、俺が……抱かれる方だ。
──あんな体格いいやつのあれ、挿入したら絶対壊れる!
──ごめんみんな、俺逃げる!
逃げる銀狐の行く末は……。
そして逃げる銀狐に竜は……。
白竜×銀狐の和風系異世界ファンタジー。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

淫愛家族
箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる