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しおりを挟む「はるひ、俺はお前を大事にしたい」
何よりも大切だ。
城で待っていると信じていたのに、その姿がどこにもないと知った時の胸の内の凍るような感覚を思い出すと震えが起きそうだった。
足元が崩れていくような感覚も、息が吸えなくなるような苦しさも……
他の奴の隣で笑っている姿を見るのも……
もうたくさんだ。
「 はるひ」
「っ、はい」
「お前の髪は綺麗だな」
少しでも乾かないかと濡れた髪に指を差し込んで梳いてみるも、櫛ではないのだからたいした効果はなさそうだった。
濡れていつもと感触の違う髪が面白く思えて、髪を梳く行為に紛れて繰り返し繰り返し指を差し入れて、その手触りを堪能する。
「 っ、クラドさ ま、手をっ 」
首筋を指が掠めたせいかはるひがひくりと体を跳ねさせ、逃げるように蹲ってしまった。
小さい体に覆い被さるようにして近づくと、はるひは壁の中に逃げることができると思っているかのように、ぴたりと張りついてしまう。
追いかけて、追い詰めて、詰め寄り、捕まえ……
誘う匂いを漂わせるはるひを堪能したくてたまらない。
体についた他の雄の匂いは湯で清めたことにより洗い流されてはいたが、服からは未だにあの狐の臭いを感じ取ることができ、チリチリと乱してはいけないと言い聞かせていた感情が火で炙られるような、そんな感覚がする。
このいい匂いの生き物を、自分だけの匂いで満たすことができたなら……
「はるひ……」
「 っ 」
はるひの頭を沸させるような芳しい匂いに、辛うじて意識を繋ぎ止めながら、ひざまずいて希いたい気持ちでその細い肩に額を預ける。
「お前に、触れさせてはくれないか?」
今の俺が願うのはそれだけだった。
◇ ◇ ◇
「……すみません」
オレの謝罪が、この人の心を少しでも軽くすることができるんだろうか?
手渡された純白に銀で縁取りされた豪奢な封筒、そして何よりも目を引く宝石が用いられた蜜蝋に、オレの手は震えるしかなかった。
白銀の髪とその瞳を示す青い宝石をあしらったこれは、モデルとなった王しか使うことのできない封書で、よほど畏まらなければならない場合以外は使われることはないものだ、これを使っての通告は絶対的な強制力を持つ。
「婚姻許可」と繰り返し心の中でその言葉を繰り返してみても、言葉の意味が変わることはない。
むしろ呟くごとに重く圧しかかってオレの心をへし折りに来るようだった。
────誰かが、見ていたのかもしれない……
安易に起こしてしまったオレの罪の現場を。
あの天気だし、元々人のあまり寄り付かない場所だからだと、浮かれて本当に周りに人がいないかを確認できていなかったのかも。
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