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しおりを挟む暗い部屋の中に無粋に割入って来た光は、辛うじて赤ん坊の目を射ることはなかったが、音はどうしようもなかったせいか腕の中の小さな体が大袈裟にビクンと飛び跳ねる。
「 ────ヒロっ!」
階段を駆け上がって来たのかはるひの息は切れて、急いでいたのか服は前を掻き合わせているだけで閉じられてはいないようだ。
ぽたぽたと黒髪から雫を零しながら、ベッドを見てから俺を見、ほっとしたようにその場に膝をついた。
「泣き声が聞こえて……」
そう言うと改めて赤ん坊を抱き上げている俺に目を遣って、はっとしたように跳び上がる。
「だっ だっこ、してくれたんですね」
「あ? あぁ、それくらいは、俺にでもできる」
ほっとした顔で俺に近づくと、子を持つ親らしい優しい笑みを浮かべながら、うとうととしている赤ん坊の頬をくすぐった。
「どうですか?」
「あ?」
「ヒロは」
軽い と言えばいいのだろうか?
それとも声が大きい?
小さいことには違いない。
少し窺うような表情でこちらを見てくるはるひは昔のまま、屈託なく俺に笑顔を見せてくれていた姿に似ている。
「あ 赤ん坊だな」
どの感想を言えばいいのか迷った挙句に出た言葉がそれだった。
「────そう、ですね」
こちらを見上げた瞬間には瞳に宿っていた光が消えて、落胆の色を隠しもしないではるひは俺の腕の中から赤ん坊を受け取ると、項垂れたままベッドへと腰かける。
俺がもう少し言葉を選べる人間だったならば、落ち込んだように見えるはるひは存在しなかっただろう。
一年前も、もう少し俺が言葉ではるひの意志を確認していれば?
俺の蛮行に思い悩んで、何も言わずに姿を消すこともなかったんだろうか?
もう少し、言葉をかければ……
「ち、いさいな」
「え?」
「それに、泣き声が大きい。あと、軽すぎるんじゃないか?」
「軽い?ですか?これでもだいぶ大きくなって、ずっと抱いていたら腕と腰が痛くなるんですよ」
この軽さでだいぶ大きくなったのだと言われてしまうと、産まれはどれほど小さかったのかと心配になってきてしまう。
「そうか……────それから、綺麗な目をしている」
そう言うと弾かれたようにはるひの顔が上がり、赤ん坊にしか見せなかった笑みが微かに俺の方へと向けられた。
「そ そう!そうですよね!」
「あ……ああ」
再会してから一番嬉しそうな顔をして、はるひは腕の中の赤ん坊を見詰める。
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