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しおりを挟む計算されて刈り込まれた木々は人目を隠し、蔓バラと優美な曲線で作られた白亜の小さな屋根が、激務の合間の一時を憩うのに最適なのだと。
俺がそこに足を向けると、緩やかな風に乗って独特な匂いが鼻をくすぐる。
どんな匂いかと尋ねられればー……そう、スカスカとした と言う表現になりそうな、そんな匂いだ。決して悪い匂いではなかったがなんだか漂白されきり、生き物としての何かをすべて削ぎ落したかのような無機質な感じだった。
「 ────やぁ」
白い柱の向こうからそう声が掛かり、振り向いたのか動きに合わせて長い長い銀糸がふわりと舞う。
神が与えた聖銀の人形
天上の百合を模した人
至上のきらめく銀細工
それから、メイド達はいろいろな言葉で表現していたが覚えてはいなかった。
端的に言うなら、神の寵愛を受けるにふさわしい美貌 と言う奴だ。
「クラド、君から声をかけてくれるなんて嬉しいよ」
ふわ と優美に微笑めば、メイド達から悲鳴が上がりそうだった。
当代巫女にして、兄の妻であるかすが……
「この度は、私などがお呼び立てしてしまいまことに申し訳なく 」
「気にしないで、君は僕の義弟でしょう?」
そう言って俺に東屋のベンチを勧めてくる。
「恐れ多いことです」
かすがの義弟と呼ばれるのがか、対等に座ることがか判断しあぐねたのか、かすがは少しだけ苦笑して立ち上がった。
そうすると衣擦れの音と、長く癖のない髪がさらりと音を立てて音楽を奏でているようにさえ聞こえるのだから不思議だ。
深い銀色の瞳を少し細めて、白い指先でもう一度ベンチを差して勧められると座らざるを得ない。
「ふふ。こんなところに呼び出して、なんの話かな?」
俺の着席を待たずにそう声をかけられて、本来ならば本題の前にまどろこしい王宮の定型文的なやりとりと跳ばすと言う無作法に驚いた。
薄く唇に乗った笑みからは心は読めない。
匂いも……同様だ。
ずいぶんと昔にこちらに召喚されたばかりの頃は、整った顔をしていたが普通の少年だった。
黒い髪と黒い瞳と言う親近感を覚える姿で、俺よりは年上であったが世慣れていない風なのに貴族共からはるひを守ろうと、凛と顔を上げていた姿を覚えている。
今では銀で作り上げたような体に、朱色の唇だけが異様に目立つ姿に変わってしまって……
「人払いもしてあるんだろ?だったら、君との仲だし堅苦しいのはなしにしよう」
下手な密室よりは と思って庭園を選んだが、突き抜けるような青空に自身の悪事を晒されるのかと覆うと落ち着かない。
心構えはしてきたつもりだったが、それでもまどろこしい定型文が欲しかったと柄にもなく思った。
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