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しおりを挟む「雷に 驚いて 」
心当たりに辿り着いた俺のようすを見て、エルが苦い物でも食べたかのように顔を顰めて視線を逸らした。
違う と、たった三文字の言葉が出ずに唇が震える。
「めでたい話に浮かれて、はるひに確認を取らなかった私の不手際ですね」
それを認めてしまえば、俺は無理矢理性交を迫った挙句にはるひにつきまとうただの最低な奴と言うことになってしまう。
いや、俺の評価なんてものはどうでもいい。
じゃあはるひは、逃げ場のない王宮で自分を無理矢理に蹂躙した男を突き放すこともできずに、ただただ……近寄ってくる俺にまた襲われるんじゃないかと怯えていた と?
余所余所しく、少しでも俺と距離を取ろうとしたのは、そう言うことなのか?
しかも、俺はそれに気づかずに加害者だと言うのにはるひと相思相愛なのだと浮かれていた と?
「は ?」
息が苦しくて、俺の周りの空気がすべてなくなってしまったかのような錯覚に眩暈がした。
呼吸をしようとしたのにうまく吸い込めず、襟元を掻きむしるようにして服を緩めたが効果はない。
「 クラド」
「 っ」
エルの声にからかいを含む影は一切なく。
冷淡な とも称される切れ長な瞳を眼鏡の奥から青い顔をしているだろう俺に向けて、同情とも軽蔑ともとれない曖昧な表情を見せる。
「貴男は獣人の中でも特に鼻がいい、故にそれに胡坐をかいてしまうきらいがあるように見えます。まずはきちんと事実確認を取るべきだと私は思いますよ」
それは、エルが俺に与えてくれた猶予だ。
俺が最低な人間と決定づける前の……
「貴男自身も、ちゃんと言葉で好きだと言いましたか?黙っていたら新人騎士が辞表出すくらい怖いんですから、もう少し穏やかな顔をして話してみては?」
エルらしい言葉で空気を換えようとしたのだろうけれど、今はその言葉に素直に頷いて返すことができない。
それではるひに否と言われてしまったら、俺はどうしたらいいんだろうかと言う思いで、震え出してしまいそうだった。
信じられないくらい小さくて、抱き上げると人形のように可愛らしくて、少し警戒しながらもこちらをちらちらと窺って……でも最後には満面の笑みを見せてくれる、その笑顔を向けられるとたまらなく幸せになる、それがもう叶わないことだとしたら?
腕の中に収まる、小さくて愛しい存在が嫌悪を向けてきたとしたら?
「何事も机上のみでは話になりません」
そう極力穏やかに言葉を続けてくれるのは、俺がエルの幼馴染で長い付き合いがあるからだろう。
安易に突き放さずに可能な限り道を見つけようとしてくれる有難さに、冷たい指先で額を押さえながらなんとか頷き返した。
人の背丈ほどの高さに整えられた葉の密度の濃い木々と、季節毎に咲き誇るバラに彩られたその東屋は王宮の端にありながら丁寧に手入れをされており、異世界から召喚された男巫女であるかすがの気に入りの場所だと聞いたことがあった。
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