狼騎士は異世界の男巫女(のおまけ)を追跡中!

Kokonuca.

文字の大きさ
上 下
29 / 303

29

しおりを挟む



 正妃の子とも側室の子とも、ましてや愛妾の子と言うわけではない俺は、血筋としての責務である政治には関わらなかったし関わることができなかったとも言える立場だ。
 だから、はるひの立場についての話が出ることはあっても、今の話に俺の立場を持ち出されるとは思いもしなかった。

「……俺は、王族としては役に立ちませんよ」
「それはお前の主観だ。はるひもそうだが、自己評価が低すぎはしないか?王の子でありながら国内に柵の薄いお前の利用価値は幾らでもある。貴族達との縁を深めるのにも使ってもいいだろう、他国との交流のためにお前が婿入りすればどれほどの利になる?」

 王家と縁付きたい貴族に恩を売るために養子に出してもいいだろうし、他国に人質同然に婿に行かせていざとなれば切り捨てても惜しくない と。

 何に使って、どのような結果になっても構わない。

 そんな立場だと改めて言われると、ぐっと言葉が喉に貼り付くようだった。

「逆に、お前がはるひと結ばれることによって、王家と神の親密さが過ぎると疎む貴族も出てくるだろう。王家の人間が一代に二人も神と縁付くことはこの国ではなかったからな」

 ぱしん と兄の尾が鳴る。

「な なにを……」

 先程まではこちらをからかうほどの軽い雰囲気であったはずなのに、急激に変わった空気について行けずに目が回りそうだ。
 サファイアをはめ込んだかのような双眸がひたとこちらを見詰めると、呼吸はままならないし肌がぴりぴりと痛みを訴える。

 俺とは正反対の、純白の体は神々しくて……

 兄弟内では一番目をかけて貰ってはいるが、兄と自分とでは天と地ほどの隔たりがあることを痛感させる。
 コリン=ボサの現身と言われるその姿には、人を惹きつけ額突かせる強制力があるようだった。けれど、こちらを飲み込みそうになる威圧感を真正面に受け、気圧されそうになるのを耐えながらぐっと顔を上げた。

 身の底の底まで覗き込むような静謐を湛えた碧は、邪心があればすぐにでも見抜かれてしまいそうだ。

 そんな瞳の前で出来ることなんてたかが知れているが、俺は椅子から立ち上がると兄の前に膝を突いた。

「────では、貴族と縁付くよりも、他国と縁付くよりも、それよりも大きな利を捧げます。神に近づきすぎたのではなく、王の力が盤石になったのだと言わしめるような。クルオス王の騎士として世の魔を祓い暗雲を退け、御代に光をもたらし続けるような、誰もが納得するような成果を以て報います」

 この人には、頭を垂れることが苦ではない。

「────ですので、どうか……はるひとのことをお許しください」

 応えはなく、代わりにぱしん ぱしん と物思うかのような尾の打ち鳴る音が響く。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない

てんつぶ
BL
 連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。  その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。  弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。  むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。  だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。  人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

処理中です...