狼騎士は異世界の男巫女(のおまけ)を追跡中!

Kokonuca.

文字の大きさ
上 下
26 / 303

26

しおりを挟む



 確かに、たった二人だけでこの世界に連れて来られたのだから、その絆は俺が推し量れるものではないだろうし、その感情を利用したのは卑怯だった。

「ああ、すまなかった」

 俺の口調では碌な謝罪ではなかっただろうに、はるひはそれ以上咎めることなく唇を引き結んだ。

 端から見ても仲の良い兄弟に見えた二人だ、この世界にお互いしか身内がいないと言うことを差し引いても、かすがのはるひへの兄弟愛は飛び抜けていたし、逆もそう感じた。

 故に、どうしてはるひが最悪の事態もあり得たゴトゥス山脈への遠征の最中に姿を消したのか……

 それだけがどうしてもわからない。

 歴代最高の力を持っていたとされる前々代男巫女であるミロクを遥かに凌ぐ力と神の寵愛を受けるかすがの弟として、兄弟ならばその力の片鱗を持っているのではないかと誘拐されたのか、それともはるひを通じて王と巫女に連なろうとする者が囲い込んだのか、それともかすがを脅すための材料とするために……?

 それぐらいの当たりを付けていたが、今の状態を見るにそのどれとも違うようだった。

 想定していた最悪よりは幾分マシと言う程度だが……

 この国には犯罪奴隷のみだが、他国には普通に奴隷の売買があるところもある、そう言う場所に流されていなかったことは本当に幸いだった。

「かすが兄さんが元気なら……どうしてオレを連れ戻すんですか」

 疑問のようで疑問でないその言葉には、自分で答えを持っているように思えたが、はるひの持つ答えと俺の持つ答えは違うだろうことだけははっきりとわかる。
 言葉で説明するよりは分かりやすかろうと、肌身離さないように持っていた書状を探り出して不安そうな顔で俺を見ているはるひに向かって差し出した。

 真白に銀の縁取り、そして鮮やかな宝石の粉を練り込まれた封蝋。

 それを唯一使うことのできるのはこの国でただ一人だけだ。

「は ?」

 滅多に見る物でないからかはるひはそれを受け取ることに怯えを感じているようだった。

「なに、 が?」

 はるひの言葉は掠れて聞きづらく、緊張で喉が干上がっているのだろうことが容易にわかる。

「  ──── 俺とお前の、婚姻許可だ」

 薄暗い馬車の中でもはっきりと見て取れるほど顔色を白くして、はるひは口の中で「婚姻許可?」と繰り返す。まるでその言葉の意味を知らないかのように、小さく唇が何度も繰り返しその言葉の形を取って、やがて震え出す頃には大きな黒い双眸の縁に涙が玉を結んでいた。



 はるひの反応は俺の想像よりも酷いもので、縋りつくようにしていた一抹の望みは絶たれたわけだ。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

転生したらオメガだったんだけど!?

灰路 ゆうひ
BL
異世界転生って、ちょっとあこがれるよね~、なんて思ってたら、俺、転生しちゃったみたい。 しかも、小学校のころの自分に若返っただけかな~って思ってたら、オメガやベータやアルファっていう性別がある世界に転生したらしく、しかも俺は、オメガっていう希少種の性別に生まれたみたいで、は?俺がママになれるってどういうこと?しかも、親友の雅孝をはじめ、俺を見る目がなんだか妙な感じなんですけど。どうなってるの? ※本作はオメガバースの設定をお借りして制作しております。一部独自の解釈やアレンジが入ってしまう可能性があります。ご自衛下さいませ。

オメガ転生。

BL
残業三昧でヘトヘトになりながらの帰宅途中。乗り合わせたバスがまさかのトンネル内の火災事故に遭ってしまう。 そして………… 気がつけば、男児の姿に… 双子の妹は、まさかの悪役令嬢?それって一家破滅フラグだよね! 破滅回避の奮闘劇の幕開けだ!!

逃げる銀狐に追う白竜~いいなずけ竜のアレがあんなに大きいなんて聞いてません!~

結城星乃
BL
【執着年下攻め🐲×逃げる年上受け🦊】  愚者の森に住む銀狐の一族には、ある掟がある。 ──群れの長となる者は必ず真竜を娶って子を成し、真竜の加護を得ること──  長となる証である紋様を持って生まれてきた皓(こう)は、成竜となった番(つがい)の真竜と、婚儀の相談の為に顔合わせをすることになった。  番の真竜とは、幼竜の時に幾度か会っている。丸い目が綺羅綺羅していて、とても愛らしい白竜だった。この子が将来自分のお嫁さんになるんだと、胸が高鳴ったことを思い出す。  どんな美人になっているんだろう。  だが相談の場に現れたのは、冷たい灰銀の目した、自分よりも体格の良い雄竜で……。  ──あ、これ、俺が……抱かれる方だ。  ──あんな体格いいやつのあれ、挿入したら絶対壊れる!  ──ごめんみんな、俺逃げる!  逃げる銀狐の行く末は……。  そして逃げる銀狐に竜は……。  白竜×銀狐の和風系異世界ファンタジー。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

処理中です...