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しおりを挟む確かに、たった二人だけでこの世界に連れて来られたのだから、その絆は俺が推し量れるものではないだろうし、その感情を利用したのは卑怯だった。
「ああ、すまなかった」
俺の口調では碌な謝罪ではなかっただろうに、はるひはそれ以上咎めることなく唇を引き結んだ。
端から見ても仲の良い兄弟に見えた二人だ、この世界にお互いしか身内がいないと言うことを差し引いても、かすがのはるひへの兄弟愛は飛び抜けていたし、逆もそう感じた。
故に、どうしてはるひが最悪の事態もあり得たゴトゥス山脈への遠征の最中に姿を消したのか……
それだけがどうしてもわからない。
歴代最高の力を持っていたとされる前々代男巫女であるミロクを遥かに凌ぐ力と神の寵愛を受けるかすがの弟として、兄弟ならばその力の片鱗を持っているのではないかと誘拐されたのか、それともはるひを通じて王と巫女に連なろうとする者が囲い込んだのか、それともかすがを脅すための材料とするために……?
それぐらいの当たりを付けていたが、今の状態を見るにそのどれとも違うようだった。
想定していた最悪よりは幾分マシと言う程度だが……
この国には犯罪奴隷のみだが、他国には普通に奴隷の売買があるところもある、そう言う場所に流されていなかったことは本当に幸いだった。
「かすが兄さんが元気なら……どうしてオレを連れ戻すんですか」
疑問のようで疑問でないその言葉には、自分で答えを持っているように思えたが、はるひの持つ答えと俺の持つ答えは違うだろうことだけははっきりとわかる。
言葉で説明するよりは分かりやすかろうと、肌身離さないように持っていた書状を探り出して不安そうな顔で俺を見ているはるひに向かって差し出した。
真白に銀の縁取り、そして鮮やかな宝石の粉を練り込まれた封蝋。
それを唯一使うことのできるのはこの国でただ一人だけだ。
「は ?」
滅多に見る物でないからかはるひはそれを受け取ることに怯えを感じているようだった。
「なに、 が?」
はるひの言葉は掠れて聞きづらく、緊張で喉が干上がっているのだろうことが容易にわかる。
「 ──── 俺とお前の、婚姻許可だ」
薄暗い馬車の中でもはっきりと見て取れるほど顔色を白くして、はるひは口の中で「婚姻許可?」と繰り返す。まるでその言葉の意味を知らないかのように、小さく唇が何度も繰り返しその言葉の形を取って、やがて震え出す頃には大きな黒い双眸の縁に涙が玉を結んでいた。
はるひの反応は俺の想像よりも酷いもので、縋りつくようにしていた一抹の望みは絶たれたわけだ。
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