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しおりを挟む「────はるひ」
名前を呼ばれてはっと目を瞬けば、遠くの雷光を受けて光る銀の瞳がこちらを見ていた。
「あ、えっと……」
「聞いてなかったのか」
「ん ごめんなさい」
今のオレを見る双眸にあの時のような熱は籠っていなくて、ただただ義務感だけを感じさせる硬質さで見詰められ、心地の悪さに居住まいを正す。
「この雨だ、次の町で宿をとらざるを得ないだろう」
「そ う……よかった。ヒロをお風呂にも入れてあげたかったし」
クラドの眉間の皺を考えると、馬を替えながら王都まで不眠不休で走るつもりだったのかもしれないが、大人だけならともかくヒロがいるのにそんながことできるはずがない。
ひとまず今日はきちんとした寝床で休むことができそうだとほっと胸を撫で下ろした。
雷鳴は、少し遠のいたのか先程よりはずいぶんと小さく聞こえる。
「……もう、雷は怖くないのか」
クラドもあの日のことを思い出してくれたのかな?なんて思いがちらりと過ったけれど、もう一年も前のことだし、クラドにとってはただの事故でしかないのだからと、ヒロの様子を窺うふりに隠して曖昧に頷いて返した。
◆ ◆ ◆
俺は、幾つかの間違いを犯した。
その一つは誤ってはるひを抱いてしまったこと。
……それから、その相談を兄達にしてしまったことだ。
俺は、王の子供ではあったが正妃の子でも側室の子でもなくて、前々代巫女であり前王の正妃であるミロクが懇意にしていた護衛騎士だった母が、前王の流れ弾に当たったために出来たと言うだけの子で、王の子ではあっても母方の後ろ盾はないにも等しい、けれど正妃ミロクの覚えがいいと言う擁護するにも排除するにも微妙な立場を持っていた。
邪険にもぞんざいにもできずに持て余されていたのは小さな頃からわかってはいたので、母の志を継ぐと言う形で騎士になることを望んだ俺に宛がわれた役目は、異世界から召喚された巫女の弟の護衛だった。
巫女の護衛騎士ならば栄誉だろうに、そのおまけでついてきた子供の護衛と言う名目の子守役に任命されて……
正直、外れくじを引かされたのだと思ったが、俺と同じように微妙な立場の子供に対して感情移入してしまったのは、顔合わせの際に向こうの言葉で『こんにちは』と声をかけた俺に満面の笑みを返してくれた時だ。
無邪気に、全身でこちらに信頼を寄せてくれる小さな存在を愛おしく思うことは難しいことではなく、むしろ日々接する中で俺にだけ向けてくる好意を知る度にその思いは募っていった。
そしていつしか感じるようになったのは、はるひが成人を迎えたらその前に跪いて愛を乞いたいと言う思いだった。
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