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しおりを挟む遠くに黒い雲が迫ってきているのに散歩に行くと言って飛び出したオレを、クラドが追いかけてくるのはわかっていた。
それが彼の王から命じられた役割だったのはわかってはいたけれど、途中で雨に降られるのを承知で城の北側にある森の方まで制止を聞かないふりをして散歩に行った。
風が湿気を運んで来るとオレの癖毛はいつもより更にふわふわになって、かすが兄さんのさらさらと音を立てそうなほど綺麗でまっすぐな髪とは似ても似つかなくなってくる。
早く雨が降ってくれないかと願いながら空を見上げたオレの頬に雨粒が落ちてきた時には、これからしようとしていることの卑怯さとか、ズルいことをしようとしていることとか、クラドの気持ちとか、そう言ったものは全然考えてなくて、本当に最低なことをしたと今なら思う。
雨音以外何も聞こえないほどの土砂降りの中で、森番のために建てられた小さな小屋を見つけてそこに逃げ込んだ。
薄暗くて埃と雨の匂いが交じり合った小屋の中は、時折差し込む稲光で照らされる以外に明かりになりそうなものはなくて、クラドはオレを小屋の中に押しやりながら狭いそこを見回して溜息を吐いていた。
この時期の急な雨は土砂降りになりやすいのを知っているだろうに、それでも我儘を言って散歩に出たオレに呆れかえっているんだろうなってことはわかったけど、この先のことで頭がいっぱいだったせいかそんなクレドの気持ちを慮ることなんかなくて。
雨に降られて……オレの癖っ毛はぐっしょり濡れて水の重さでまっすぐに伸びていた。
まるで、かすが兄さんのように……
時折入り込む雷の光に照らされて、森番小屋の薄汚れた窓ガラスに映った姿は……オレの願いが入っているのかもしれなけれど、少しはかすが兄さんに似ている気がして心が震えるのがわかる。
「────クラド」
埃の積んだ暖炉が使えるかと様子を見ていたクラドが怪訝そうに振り返って、何か言おうとした瞬間に部屋の中が真っ白に染まって、それを追いかけるようにして小さな小屋が震えるような轟音が雨音を駆逐した。
それに背を押されるようにオレは精一杯の勢いをつけて、固い筋肉がわかるクラドの体に飛びつく。
雨に濡れたマントとひやりとした薄い金属の胸当ての感触がして、体温と胸の音はそれに阻まれて聞こえなかった。
「はるひ⁉どうした⁉雷が怖いのか?」
跳ねた体はすぐに落ち着いて、オレが雷に驚いて飛びついただけだと思われたようで……
だから、ゴロゴロと低い獣の唸り声のような雷鳴を聞きながら、頭一つは大きいクラドの首に腕を回すようにして床を蹴り上げる。
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