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しおりを挟む「否と言う人間を無理矢理など、まるで略奪の輩ではございませんか!」
「マテル!いい加減にしなさい!」
ヒロが泣いていた時とは違う、明らかにすぎた非難の言葉にテガがそう口を出す。
「殿下、申し訳ございません。行き過ぎた言葉でした……あの、」
「いや、……」
そう言ってテガの言葉を遮るとクラドはやや考え込むような素振りを見せてから、恭しく思えるほどの動きでオレの前に片膝をついた。
いつも見上げるばかりだった精悍な顔と黒くしっかりと立った耳が微かに揺れて、黒い髪と黒曜石のような黒い瞳が真っ直ぐにオレを見上げる。
「はるひが行方知れずになり、兄君が心労のために床に伏されている」
「 っ」
「食事も喉を通らずひどい状態だ、顔を見せてやってくれ」
「……に、ぃさんが?」
「君を心配して、そんな状態なのに探しに行こうとしている。これが、戻ってきて欲しい理由だ」
こちらの世界で二人きりの肉親のせいか、かすが兄さんが過保護なのはわかっていたけれど、オレがいなくなって寝付いてしまうほどだとは思っていなかった。
心のどこかで、かすが兄さんにはオレがいない方がいいんじゃないかなって、思っていたのかもしれないせいだ。
男巫女の役割に、王の伴侶としての役割に……その上で兄としての枠割まで抱え込んで、かすが兄さんの苦労はどれほどだったのか。
ロカシやマテルに手伝ってもらいながら子供を育てていて、改めて感じたことだった。
なのにオレは、そんなかすが兄さんを裏切って……
「────兄君が心配している、帰ろう」
重ねられた言葉に、ひく と心のどこかが攣れた気がして、頷こうとした動きが止まってしまった。
こんなことを思うわけにはいかないのに、誠実じゃなくてズルいオレの心根のせいか、ふと「クラド様は心配してくれたのかな?」って言う言葉が浮かぶ。
目の前のオレを見つめる瞳に問いかけるのは簡単だ。
けれど、それをしてしまったとして、希望通りの答えが返るとは思えなくて。かすが兄さんが困っているからオレを探したけれど、それがなかったらクラドはオレを探したんだろうか?
「はるひ……兄上が心配なのはわかる……でも、 」
ロカシは眉を八の字にしてそろりとオレの表情を窺うけれど、そちらに視線を遣らずにオレは黒い瞳を見下ろす。
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