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しおりを挟む「では火種は必要ないな」
「なんてことを言うんですかっ⁉︎その子はそんな不穏なものじゃない!」
「不穏でない内に対処をするんだ!長じて可哀想なことになるよりは……」
「可哀想なこと⁉︎お父様ははるひが気に入らないだけでしょう⁉︎だからヒロが生まれても 」
「身内の問題はそちらだけでしてくれ」
「はるひだって身内ですっ!」
自分のことを話されているのに一切口を挟ませない会話に、いい加減にしてくれと叫びそうになった瞬間、じっと様子を窺っていたマテルが腹の底から響かせた声で「いい加減になさい!」と怒鳴り上げた。
小柄な女性が男達の言い争いを止めれるものなのかとどきりとしたけれど、ロカシもテガもその声を聞いた途端にぴっと背筋を正して口を閉ざしてしまった。それに促されるようにクラドも口を閉じたのを見計らうと、いつも穏やかそうな表情しかしないマテルはきりっと眉を吊り上げる。
「聞いていれば赤ん坊のいる場所でいい年した大人達が何を言っているのですか!大概になさい!家畜の仔ではないのですよ!生みの親を前にして何を勝手なことを!やっと生まれて健やかに育っている子に向かって嫌な言葉は使わないでいただきたいわ!」
ずかずかと近付いてロカシを弾き、オレの腕を掴んだままのクラドの手を払い除けで自分の背中に庇うと、頭二つは高いクラドに向かってしっかりと顔を見せた。
「何を 」
「いいえ何もっ!私ははるひさんの味方でございます!大変不作法でしょうが赤ん坊とその親をないがしろにする態度はいかがなものかと思います!突然押し入って連れて行くなんて山賊同然の行為を、見過ごせません!」
張られた声は高らかなのに、オレを庇う彼女の背中からは小さな震えが伝わってくる。
テガとのやり取りでクレドの地位も知っているだろう、それでもこうやって非難の声を上げると言うことは、気丈なだけでできるわけじゃない、それなりの覚悟があってのことだ。
「上に立つ者だからと理もなく人を自由にできるとは思うべきではありません!」
幾らテガの乳母を経てロカシのばあやをしていたと言う経歴はあっても、マテルの位自体は高くない。逆にクラドの地位は、無礼と思えば長剣を振り下ろすことだってできる立場で……
「…………」
黄色い三角耳を寝かすこともなくまっすぐに見つめられて、クラドは口を引き結んだままだった。
「何某かの事情もおありでしょう、ですが力づくでは人を動かすのは容易ではありませんよ」
険しい表情をしたままのクラドからは、マテルに対する不愉快さは見て取れない。
そんなことをする人ではないと信じてはいるけれど、マテルをいきなり叩き切る なんてことは起こらなさそうでひとまず胸を撫で下ろした。
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