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しおりを挟む「っ クラド さ……ん、 っ」
身じろげば先端に指先が触れると言う距離がじれったくて、じりじりと身を焼くような体温に促されるように背後のクラドを見上げると、艶のある煙水晶で作ったような瞳がオレを見下ろしているのがわかった。
肌を露にしていることが恥ずかしいのに、熱っぽい視線がその上を這って行くのが心地よくて止めることができない。
肩、鎖骨、そしてなだらかに続く掌にすっぽりと収まった胸へ……
「 ……はるひ」
繰り返し繰り返し、今まで幾度も名前を呼ばれたのに、染み入るように名前を呼ばれたのは初めてかもしれない。
少し掠れるような低い響きのいい声が心地よくて、背後の温かさに背を預けようとした瞬間、ぐらりとヒロの首がずれて驚いたのかこちらが驚くほど大きくその体が跳ねた。
突然のことに慌てて両手で抱え直すと、自然とクラドの腕を払う形となってしまって……
はっとなってクラドを振り返ったけれど、その双眸に先程までの熱はなく、むしろ冷たさすら感じるような眇めた目で指先を見詰めている。
「……乳も本物か」
牛乳よりも薄い白みの液体にすん と鼻を鳴らす姿は作業的で、先程の行為がただ本当に授乳できているのかだけを確認するためだけだったことに気付いて、顔がどっと赤くなった。
酷くいやらしく触られていると思ったのは自分の一人よがりだったのだと……
体を震わせたものが羞恥だったのか怒りだったのかはわからなかったけれど、体の奥にあった埋火のような熱を消すには十分で、精一杯力を込めて睨み返したけれど硬質な黒い瞳は歯牙にもかけないふうだった。
テリオドス領現当主であるテガ・テリオドスに会うのは久し振りで、ロカシに連れられてここに来た時に会った時以来だ。幾ら領民に親しまれている、交流の機会を多く設けている土地柄とは言っても、ある日突然息子が連れて来た身元の不確かな人間を認められなかったのは十分にわかることだった。
ましてやその人間が子供まで産んだんだから、領主としても親としても思うところがあるのは間違いない。
だから、その口髭を備えた顔が不審そうに歪んで、オレとクラドを見て気まずそうに自分の隣に立つロカシを見る際のなんとも言えない心情は良くわかる。
「 殿下、その……これは、 」
隣国と接する最東の要の地とは言え王都から遥かに離れた地に、なんの先触れもなく王族が単身で戸惑うのも真っ当な話だ。オレだって今朝、朝日が昇る前に起き出した時にはこんな状況になるなんて思ってもいなかった。
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