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 乳が零れたせいか先端の濡れた乳首は空気に触れるとつんと尖って……凹凸のない胸の中でそれだけがぷくりと存在を主張しているようで、慌ててクレドの腕を振り払う。けれどオレの力なんかが敵わないのはもう学習済みで、案の定クレドの腕はピクリともしない。

「なに を 」
「こんなに怪我をするような仕事を、しなくてはならないのか」

 剣を握り慣れた皮の厚い指先が、今朝棘を刺したばかりの指を労わるように撫でる。

 無骨で繊細な動きなんて出来そうにもない手なのに、こちらが驚くほどの優しい加減で触ることを知っているから……

 指先と傷と言う敏感な部分を柔らかく撫でられてぞくぞくしたものが背中を駆け上がってくる。

「クラド様っ  手を、放して……」

 大きくて、すっぽりオレの手を包む手は温かい。

 肌が触れあっていない箇所がうら寂しく感じるほどの温もりに、心の中のやっと押し込めることのできた記憶を引きずり出されそうで、我がままを言う子供のように繰り返し首を振った。

 なのに、覆い被さってくるような体温は離れてくれなくて……

 労わるように触れていた指がするりと動き、前腕を通って肘をくすぐる。何をするのかと問いかける前にその手がなんの躊躇もなく胸の先端に添えられる。

「 ぁ  っ」

 必死に乳を飲むヒロの邪魔にならないようになんとか声を上げるのは堪えたけれど、そのせいか抵抗をしそびれてしまって指先が赤い先端に溜まる雫を掬い上げるのを止められなかった。

 触れるか、触れないか、そんな産毛を撫でるような距離で指先に白い液体を移すと、

「まだ乳の出る時期なのに……」 

 そう呻く。

「 っ、  クラドさ  っ」
「しー……はるひ、赤ん坊が寝たぞ」
「え?あっ……」

 背中をさすってげっぷをさせなければ と思っていたのに、こちらに気を取られてタイミングを逃してしまったらしい。
 小さくクゥ と寝息を漏らすヒロは可愛いけれど、乳を吐き出さないか心配だ。

「寝かしますので、手を……」

 退けてください の言葉は胸を押されて声にならなかった。

 薄い、どうしてここからヒロが満足できるだけの乳が出るのか不思議なほどふくらみのない胸に、クラドの無骨な指が沈む。
 どっと心臓が脈打って逃げなければと頭は思うのに、それを裏切るように体は動かない。

 決して、乱暴ではない。
 けれど、「いや」と言ったところで、それをやめる気配もなかった。

 拘束されているわけではないのだから逃げればよかったのに、小さな傷跡のある指が骨に沿うように動き、柔らかに主張するそこへ触れるか触れないかの動きを繰り返す。



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