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しおりを挟む力ずくでくる気かと息を飲むロカシ以上にオレの心臓がどっと脈打ち、磨き上げられた鏡面の刃を思い出して逃げ出したい気持ちになる。
「 私は、 」
けれど、二人の緊張をよそにクラドは鞘に納めたままの剣をロカシの前に突き出し、その柄頭の文様がよく見えるようにと傾けてきた。
緻密な細工を施されたその長剣は、一見すれば実用的な物ではなくただの儀式などに使われる飾り物のように見えるほどで、それを携えることのできる人間の地位を表すのには十分な代物だ。揺れる房飾りを訝し気に見遣りながら、ロカシが小さく呻き声を上げる。
房飾りにつけられた青いカメオには白い虎の横顔が彫られていて、それがこれ以上ないほどに彼の身分を雄弁に語った。
「…………クラド・リオプス・ラ・ロニフ・シルル王弟殿下……でしょう か」
ロカシの言葉にフードをずらして日の光の元に顔を晒すと、クラドはほっとしたように息を大きく吐く。
「シルルは王籍を抜けた際に返上した。今ではただの騎士に過ぎない」
精悍な の言葉がよく似合う日に焼けた肌に良く似合う光を弾かない漆黒の黒髪、一年前はもう少し短かったけれど今は首の後ろで一つ括りに結わえることが出来るほどに伸びていた。
王族だと言うのにのんびりと育って来たのではないことを感じさせる眼光がこちらを向いて、オレの頭から爪先までを満遍なく遠慮なしに眺める。
クラドの視線は鋭すぎて、肌の上を動くとどこを見られているかわかるほどだったから、避けるようにロカシの背中で身を竦ませた。
「これでいいだろう、はるひを渡せ」
使い込まれた皮手袋を嵌めた手がオレを捕まえようと伸ばされて、返上したとは言え王族相手にロカシに出来ることはない と覚悟を決めるしか出来なかった。
自分の体をぎゅっと抱き締めて、これからオレが出来ることは何があるのかを考えようとしたが、それを遮るようにロカシのはっきりとした声が耳に届く。
「 恐れ多いことですが、はるひをお渡しするわけには っ」
チ と金属の擦れ合う小さな音がしたと思った瞬間、銀色の光がチカチカと目の奥まで刺すように煌めいて、一瞬何が起こったのかわからなかったけれど、オレの前に立っていたロカシがよろめいて首を逸らすのが見えた。
「引け、お前が首を突っ込む話じゃない」
「……っ」
皮一枚で触れてはいなかったが、クラドの剣がロカシの首元に突き付けられていて……
「なっ クラド様っ!や、止めてください!お願いっ!お願いですからっ‼︎」
唾を飲み下せばそれだけで首が切れてしまうのではないのかと言う位置のせいで、間に飛び入ることもできずにただそう嘆願の声を出すしかできなかった。
──── ぁ
背後で小さく上がった声は、普段なら聞き逃したかもしれないほどの小さなものだったが、神経を張り詰めたこの状況下でははっきりと耳に届いてしまって、反射的にさっと視線を家の方に向けてしまった。その一瞬の視線の動きに気づかないほど、クラドと言う男はぼんくらじゃないのはオレが一番よく知っている。
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