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しおりを挟む瘴気や魔物 と言われても、実はオレは遭遇もしたことがなければ被害を経験したこともなくて、どう言った物かと説明できないのだけれど、被害の多い地域だと森に薪を拾いに行くのにも命がけなのだと聞く。
そう言った生活に密着した部分に光が差したのだから、この大陸全土に住む人々はどれほど嬉しかったか……
元の世界には魔物はいなかったし、ここに来てからも王宮でそれなりに大事にされて、王宮の外に出たのもかすが兄さんが浄化して平和になりつつある状態だったから、どうしても実感が湧かない。
長閑な馬車の車輪痕のついた道を、二人でなんてことはない話をしながら歩いて行く。
テリオドス領は王国の端の端と言う立地のせいか、辺境伯の城のある周辺でも王都のような先端を行くような華やかさなくて、その代わりに気風を表すような素朴で牧歌的な雰囲気があった。
それでも、巫女の成した偉業を祝う長い祭りの名残がところどころに見えて、かすが兄さんの偉業を改めて突き付けてくる。
そう言うのを見るたびに、一緒に異世界から来たというのに何もできずにいたオレは申し訳なさを感じてしまって……
「あそこの櫓も片付けてしまわないとね」
「 うん」
「祭りで来た劇団すごかったね!」
「 うん」
かすが兄さんは、綺麗で、凄くて、…………なのに、オレは……
「はるひ!」
ぐいっと手を引かれてたたらを踏んだ。
ロカシの手が引く方向に目を向けるとオレが帰らなきゃいけない小さな家が見えて、考え事をし過ぎたせいで通り過ぎる所だったのがわかった。
ぱち、ぱち、と目を瞬いてロカシを見ると、柔らかそうな頬が少し膨らんでいる。
「僕の話にうわの空なのはいいけど、ちゃんと家には帰らなきゃ」
ちょっと腹を立てているのか赤い毛に良く映える緑の瞳が日の光を受けてぎらりと輝く。
「ごめ 」
普段ポヤポヤしててもやっぱり狐と言う肉食動物の性質を引いているせいか、こうやって真剣な顔をされるとやっぱりドキッとしてしまう。
「ほら、帰ろう。帰ってくるのを今か今かって待ってると思うよ」
一瞬見せた険を引っ込めて、ロカシは優しく微笑んでそっとオレの赤黄色に染まった手を引いてくれた。
馬車の通る少し大きめの道から逸れたように入る脇道を進むとオレが今暮らしている家が見えてくる。この村の他の家から比べても随分とこじんまりしている家で、リビングとダイニングを兼ねたような小さなキッチンと奥に二部屋だけしかない、そんな可愛らしい家だったけれど、それでも、三人で細々と暮らすには十分だ。
オレと、ロカシのばあやだったマテルと、それから……
「ん……」
考えると胸の先端が熱くなるようで、ざらりとした作業着の生地に擦れたのを敏感に感じ取ってしまった。
最近特に敏感になっているような気がするのはそれだけ力強く吸われているせいで、人の体が安易に変わってしまう不思議さに苦笑いが漏れる。
小さな家の前にある小さな花壇を横目に見ながら、この中で待つ人のことを考えて自然と顔がにやけてしまった。
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