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 赤いラフィオの花が遥か遠くまで続く。

 聖シルル王国の端の端にあるテリオドス辺境伯の治める土地は、温暖な気候のためにラフィオと言う染料の花の栽培が有名な場所だ。その赤い花の染料で染めた糸や布、そして花の色素を用いた化粧用品が有名な場所であり、オレ……はるひが住んでもうすぐ一年になる場所だった。

 一年中大きな気温の差がないせいか住みやすく、豊かな土壌と豊かな水源、農産物に恵まれた極めて住みよいその土地は、穏やかな気候を反映したかのように人々もおおらかで穏やかな気性で……
 だからだろう、ある日突然ふらりとやって来た人間のオレをすんなりと受け入れて、特に問題にもせずに仲間としてくれたのは。


「 あっ、 いたっ!」


 思わずそう声を上げて慌てて棘を指した指を口に入れると、周りからクスクスと可愛らしい笑い声が聞こえた。
 薄青い朝焼けの空の下で、さらに色味を鮮やかに増した赤い花の絨毯と、そこでその赤い花を摘み取る仕事をしている人たちが見える。

「また刺しちゃった?」

 くりんとした零れ落ちそうな瞳の少女が、悪戯っ子のような笑みを浮かべて指をひらひらとさせる。赤に染まった指先が軽やかに舞うのを目で追いながら、顔をしかめてうんうんと何度も頷いた。

 この地方の名物であり収入源でもあるラフィオは、燃えるような赤い花弁が美しかったけれど鋭い棘があるため、少しでも柔らかい朝霧の時間帯から詰み始める、村の子たちは馴れているせいかオレほど派手に刺すことはなくて、しょっちゅう「いたっ!」って声を上げるオレはお手伝いを始めたばかりの小さな子供のようだと笑われている。

 でも、嫌な笑いじゃなくて、幼稚園の先生があらあら って感じで微笑ましく眺めているような雰囲気で、子供扱いされて照れくさいのだけれど嬉しかった。

 くりくりと先端があっちこっちに遊んでしまうくせ毛の頭を恥ずかしさに掻きながら、傷の具合を確認するために指先を見てみるとまだ赤いものが滲んでくる。

「酷いようなら手当しに行っておいでよ!」

 赤い花の間にふっくらとした黄金色の尻尾をしなやかに揺らして、くりんとした瞳の少女は向こうの方の花を摘みに行ってしまった。

 そう、尻尾。

 それから、ぴんと凛々しく立った三角形の耳がここからでも見える。オレの耳とはまったく違う、ふさふさとした艶のある毛の生えたそれは明らかに動物の物で、初めて見た時はすごくびっくりしたのを今でも覚えていた。



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