虎王様は召喚された(ニセモノ)男巫女に求婚中！

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「巫女様ー！」
「巫女様、ありがとうございます！」
「ばんざーい！　巫女様！　ばんざーい！」

　鼓膜を破らんばかりの歓声に怯みそうになるもここでそんな素振りを見せることは許されない。
　俺は精いっぱい伸ばした背筋に、貼り付けた笑み、そして振りすぎて痛みを訴える手を動かし続けてパレードのど真ん中を進むしかなかった。

　王都の真ん中を通る大通り、そこを左右から人がひしめいてレッドカーペットとでも呼びたくなるような道を作り出している。

　そこを、今回の遠征で大活躍したクラドを先頭にパレードをしている最中だった。
　俺は真ん中あたりで屋根のない豪奢な白い馬車に乗って手を振っている。

　俺はこんな風に人目に晒させるのが苦手だし、正直疲れ果てていたから家に帰るならさくっと帰りたいと思う質だから、この凱旋パレードが鬱陶しくてたまらない。

　『ゴトゥス山脈の大浄化』

　これまでの巫女がなしえなかった偉業を成し遂げたのだから、パレードの一つや二つしなくては！　という説得に負けてここにいるけれど、叶うことならば今すぐにでも逃げ出したかった。


　だって、オレ、巫女じゃないし。





　この世界の唯一神、コリン=ボサ神の寵愛を受ける銀髪銀眼の男巫女、それがオレ、『かすが』だ。
　異世界より神が手ずからこの世界へと呼び、人には持ちえない超常の力を内に秘め、数々の奇跡を行使する特別な存在……らしい。

　とはいえ、繰り返すことだけれどオレは巫女なんかじゃない。

　家から追い出されたあの日、肩から下げた旅行鞄一つを持って祖父母の家へと向かうオレを追いかけて来た弟『はるひ』と共に、神の持つ空間に引きずり込まれて……この『神の箱庭』と呼ばれるこの世界の澱が溜まって出来上がった瘴気や魔物を退治するようにと告げられた。
　ちなみに、神の視線はオレを華麗にスルーして、背後で怯えるはるひに向けられている。

　その瞬間、俺はいない存在で、神は幼く何もわからずにパニックになっているはるひに説明をして……

「ま、待ってください！　弟も混乱していますし、そんなことを理解できる年じゃないです！」

　何が起こっているのかわからず、パニックになっているのはオレ自身もそうだったけれど、背中に縋りつく小さな手がオレしか頼るものがなくて、オレがしっかりしなくてはならないと思わせる。
　だから、明らかに人でない雰囲気の人の形？　を取っている銀色の生き物の話を遮った。

　一瞬の間を空けたのち、噴き出したの肌を刺すような不機嫌さ。

　言葉で言われたわけでも、態度で示されたわけでもない、なのに今この瞬間自分達を包んでいる空間が怒りを顕わにして怒気を自分に向けているのだとわかった。