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雪虫 2
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しおりを挟む「じゃあなんで、先生まで『そう』なんだ?」
バース医は無性じゃないとなれない。
無性って言うのは……フェロモンに反応しない。
「……まぁ、世の中の人間は全体的に見てフェロモンをまったく感じない人間なんていないんだから、当然ちゃ当然なんだけどもね。ただ、無性の人間にまで効くフェロモンを出せるって、どれだけ優性の強いアルファなんだろうねぇ」
顔を覚えることができなかった悔しさよりも、そのことへの興味に瞳の奥を輝かせながら瀬能の呟きはもうすでに独り言だ。
「まぁ顔が分からないから正体もわからないんだけどね」
「そいつ、なんなんですか?顔が分からないとか、正体がって……まるでおばけじゃないですか」
ぴっと指先がオレを指す。
「そう、ブギーマンだよ」
「…………」
「我々はそう呼んでる」
「…………」
瀬能の言葉で、ことん と腑に落ちた。
やけどでもした時のような鳥肌が全身に立って、それに引きずられるように嫌な冷や汗が体中から吹き出した。
……だから、か。
椅子を蹴り倒す勢いで立ち上がった無作法を瀬能にたしなめられる前に診察室を飛び出し、交通事故に遭った大神が検査入院させられている部屋へと駆け出す。
だから、だ。
その言葉を繰り返す度にざわざわとした嫌悪感が胃からせり上がり、怒りで怒鳴り出しそうだった。
ずっと、どうしてなんだろうって思ってた。
渡り廊下でつながった病院へ向かい、ゲートが開くのももどかしい勢いで階段を駆け上がって、蹴りつけるようにして大神の入院している部屋の扉を開くと、こちらを警戒している直江がまず目に入り、その奥にスーツに袖を通そうとしている大神の姿が見える。
「 あんたっ」
上がる息の下から叫んだ声の調子でただならぬものを感じたのか、直江がさっと大神の前に立ちはだかろうとするのを「座れ」と一言発してやめさせる。
膝から崩れ落ちそうになったのを寸でで堪えて、直江はぎっとオレを睨みつけると躊躇うことなく、排除しようと飛び掛かってきた。
伸ばされた手をいなし、巻き込み、力じゃなく相手の勢いを使って薙ぎ払う。
水谷が、体が小さいとどうしても力比べになると勝てないから と教えてくれたことだった。
「 ぅ、あっ‼」
この間までオレに圧勝していた油断のせいか、それとも昨日のΩの発情フェロモンにあてられた影響が残っていたのか、直江は派手に吹き飛んでベッドの方へと崩れ落ちる。
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